『セッション』と『インヒアレント・ヴァイス』という大変グルーヴィーな映画について書きます。

みやざわ支配人

若者視点からの『セッション』

 

原題『Whiplash』の方が格好いいこの映画なんですが、ブラック企業や戸塚ヨットスクールさながらのスパルタバンドマスターと、中々根性のある見た目はもやしみたいな若者との全裸での殴り合い映画でした。有名音楽大学に入学した、偉大なジャズドラマーを目指すネイマン君(マイルズ・テラー)は、血の滲む様な努力で学内でも有名なバンドに加わる事ができました。そのバンドを率いるのは、金剛力士の様な顔をしたフレッチャー教授(J.K.シモンズ)。笑顔が非常に怖い。ネイマン君は彼の下で、時には頬をぶたれ、椅子を投げられ、またある時には天使の様な囁きで甘い言葉をかけられ、手が血まみれになろうがスティックを決して離さず、折角ナンパに成功して出来た可愛らしい初(多分)彼女も突き放し、ドラムに没頭しました。

 

その甲斐あってか、バンドの正式なドラム主奏者に選ばれるチャンスを得て、コンサートで試されることになりました。だけどコンサート当日、彼のドラムに対する異常なまでの執着心が、人生をひっくり返す程の災難を呼び寄せます。というスポ根青春映画っぽいお話なんですが、兎に角このフレッチャー教授が鍛錬されたブラック企業戦士の鏡の様な人物。クソミソに貶すのは当たり前。目の前に人参を吊るされて走る馬の様に、夢という餌を良い様にちらつかせる。理不尽に振り回される事を美とし、それを我慢しなければ醜とする。俺らの時代はもっと酷かった。君らは恵まれている。手を出さないだけましだ。

 

僕も所謂そういった非人道的な会社に属していた事があります。僕の場合は自分のやりたい事で、業界そのものがそういう体質なので、何の文句もないです。しかしですね、たまに「ブラックな会社に入る人はそれ相応の能力しかない」と仰る人がいるんです。そんな訳ないでしょう。頭がよくて有名企業に入っても、箱を開けたら黒い事だってあるんです。この映画の主人公ネイマン君は、まさしく夢を追っていて、ドラムもそこそこ叩ける将来有望な青年です。なのに、入ったところが悪かった。青筋立てて怒鳴りちらすハゲなんて、とっくに絶滅してると思ってた。

だけど、彼は根性があった。ドラムでいつか世の中を見返してやると、大口を叩ける度胸もあった。だからこそ、全身黒い服の訳がわからんおっさんに不当な扱いを受けても耐えてきた。それでもやっぱり人間には限界があるんです。何かが好きという感情が狂気に変わるまで追い詰められたり、毎晩終電まで働かされたりすると気が変になる。

『セッション』という映画は、ネイマン君とフレッチャー教授、両者に罰を与え、彼らから音楽を奪います。そこから、彼らはなぜ自分たちがジャズをやってきたのかという答えへと導かれていきます。音楽は楽しいものなんです。自分の中のビートを火山の様に噴火させ、昇華する。映画のラストでネイマン君とフレッチャー教授は再度ステージで相まみえます。そこでのやりとりは、『ロッキー』であり『ザ・ファイター』でもあります。

 

ちなみに主人公のネイマン君はシルベスター・スタローンにちょっと似ています。ステージ上で今までの苦しみを炸裂させるネイマン君は、なんとも開放的でグルーヴィーなんでしょう。イカすぜネイマン。まさにオーガニズム。フレッチャー教授も気持ちよさそうにドラムを叩く彼と融合していきます。魂ごとぶつかり合った後はみんな仲良く楽しめばいいんですよ。所属する組織が理不尽でも、若者が挫折しようとも、最後にはそれを爆発させれればいい。

この映画の監督、デミアン・チャゼルは実際ミュージシャンを目指してて、厳しい練習に耐えかねて挫折した経験があるそうです。そんな彼も経験を活かしてこんな面白い映画作ったじゃないですか。梅田の映画館がラスト5分間は興奮に包まれてたぞ。若者よ、今が辛くてもグルーヴ目指してラブ&ピースやで。

「グルーヴィ」が口癖のラリラリ探偵物語『インヒアレント・ヴァイス』

 

そんな流れで次の映画ですが、僕の尊敬するポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作です。

主人公のドック(ホアキン・フェニックス)はマリファナ常習者の常にラリッてるヒッピー私立探偵。70年代のカリフォルニアが舞台なんですが、衣装とか雰囲気が素晴らしい。ラブ&ピースが一杯です。PTA監督の映画は、もうまず観てくれとしか言えない。今回はコメディ要素が強くて、相変わらず奇想天外なセリフもある。ドックと因縁の仲である菅原文太みたいなビックフット刑事(ジョシュ・ブローリン)の「もっと!パンケーキ!」(全部日本語)には腹抱えて笑いました。




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わたしが書きました。

with Theaterの支配人です。
7年間大手シネコンで劇場マネージャーを務めたのち、デザイン・マーケティングの仕事を経て独立。今でも映画館の仕事は素敵だと思っています。尊敬する人物はジャッキー・チェン。仕事でトム・クルーズに会った時に緊張し過ぎて顔が白くなった経験あり。