酒が人間をダメにするんじゃない。人間はもともとダメだということを教えてくれるものだ。

みやざわ支配人

タイトルにしたのは立川談志さんの言葉ですが、酔っ払い映画というものが存在します。

男友達で集まって、夜通し飲み歩き、なんでもござれの無礼講パーティーをして、翌朝には酷い二日酔いになる。所謂バカ騒ぎを描いた映画です。まさかの東京で期間限定上映に終わった『ナイト・ビフォア 俺たちのメリーハングオーバー』(これまたエゲツなくダサい邦題付き)が遂にDVDリリース!ということで早速借りて観ました。

 

配役は『(500日)のサマー』のジョセフ・ゴードン=レヴィットがミュージシャンになる夢を持ちつつも今一パッとしないイーサン役。有名フットボール選手で地元のスターとなったクリス役を『キャプテン・アメリカ』や『アントマン』で空飛ぶヒーロー、ファルコンのアンソニー・マッキーが演じ、出産を控えた妻がいる夫アイザックを演じるのは我らがセス・ローゲン。なんともまぁ、酔っ払い映画にしては綺麗すぎる配役といいますか(セス・ローゲンは除く)、観る前には多少の不安があったのですが、良くも悪くもその不安は的中してしまいました。昔ながらの悪友三人が、クリスマスの日には毎年集まり、朝まで飲み明かしてやりたい放題していたのですが、イーサン以外の二人はすっかり大人になってしまってこの集まりにも飽き気味。アイザックも父となるので、今回を最後に盛大に暴れよう!って内容です。

意外と酔っ払いがいない!?

 

けどこの映画、誰一人まともに酒を飲む奴がいない!アイザックはケミカルなドラッグでラリラリになって飲み歩くどころじゃないし、クリスは自分のSNSの更新の事しか頭に無い。イーサンは元カノと遭遇して、『(500日)のサマー』トム君ばりに未練タラタラ。お前ら、やる気あんのか!

そもそも、酒飲み映画は何が面白いかと言いますと、最近では『ハングオーバー』シリーズ、エドガー・ライト監督の『ワールズ・エンド』等がありました。『ハングオーバー』はバチェラーパーティー(独身最後のバカ騒ぎ)で飲みすぎて記憶を無くし大事な友人も行方不明になり、翌朝二日酔いになりながらもミステリー調に問題を解決していきます。『ワールズ・エンド』は高校生の頃に人生のピークを迎えてしまった悲しい中年男性が、悪友を集い、高校の頃成し遂げられなかった地元でのパブクロール(はしご酒)に再度挑戦する話です。

 

これだけ説明すると、本当に酒を飲んで後始末しているだけの映画に思えるのですが、実はこれらの映画は酒を飲むという事を通じて登場人物達が自分と向き合うという、まるでロードムービーの様な体を成しているのです。『ハングオーバー』シリーズの40代ボンボンニートのアランは、子供の用に駄々をこねたりいたずらをするのですが、シリーズを通していくうちにちょっぴり大人になる。2作目で、悪友とのイカれた夜が忘れ切れず、精神的に不安定になるのですが、最終作では自らこの悪友グループを卒業する事を提案する。歯科医師で一番まともそうなステュは、酔ったらストリッパーと結婚したり顔面にタトゥーを入れちゃったりするのですが、2作目でそんな自分の中にいる酒癖の悪いもう一人の悪魔の様な自分と向き合い、それも自分だと認める事で人生の伴侶を得ます。

一方、『ワールズ・エンド』の主人公ゲイリーは高校時代の全盛期の自分を忘れきれず、出世したり家庭を持って行く友人達とは相反してアル中の迷惑な奴。自分にはパブクロールしかないと言い切って死にもの狂いで酔っ払います。しかし、酒を飲み続けるうちに本音が出てきます。自分にはこれ以外取り柄がないと。お前らはいい人生を送っているけど、アル中で更生施設に閉じ込められている自分の人生の目標は、高校の時達せられなかった事を達成する事なんだと。ゲイリーは見事パブクロールを成功させ、地球は文明の無い荒廃した世界へと変わり果てます。世界の秩序が崩壊し、年収や職業で人を判断できない世界になりました。そうなると、ゲイリーにお酒は必要ありません。ゲイリーにとってお酒は、自分からの逃避に過ぎなかったのです。彼は飲み続ける事によって、その向こう側にいる本来の自分を取り戻し、誰よりもイキイキとした目で世界を闊歩していました。

以上の映画と同じプロットで描かれているのが、『ナイト・ビフォア』です。この映画の主人公達も上記の映画の主人公達と同じで、イーサンは年に一回クリスマスに開かれる悪友達とのパーティーに依存していて、自分の生活と向き合う事ができません。アイザックは子供が生まれるので、立派な父親であろうとし、家庭内では完璧な父親を演じます。しかし、内面は不安だらけで子供なんて捨ててしまえ!と思っています。クリスは30代を越えてから成功したフットボール選手なので、チームメイトに媚びを売りまくるしスターの真似事ばかりしています。けど、彼の成功の裏にはステロイドでドーピングしているという大きな誤魔化しがあります。彼らは最後の飲み歩きになるであろう聖なる夜に、それぞれ自分たちの問題と向き合います。

「酔っ払い映画」というジャンル

 

けど、この映画の問題点は、登場人物が誰もちゃんと酔っぱらわない事です。だから今一盛り上がらない。ドラッグでベロンベロンになっているアイザックを除き、ほぼ素面です。恐らく、前述の酔っ払い映画達の様に、酒を飲むという事を通じて自分と見つめ合うという映画としてのプロットを、クソ真面目に描きすぎている為、全体を通してしんみりとしています。『ハングオーバー』や『ワールズ・エンド』が楽しく何度でも観たくなるのは、やはり自分を探すという内容と酔っぱらってバカ騒ぎという内容が上手く両立されていたからだと思います。『ナイト・ビフォア』はバカ騒ぎの面が薄かったので、インパクトの小さい映画になってしまっていました。

この酔っ払い映画ってジャンル、まだまだ可能性があるから今後とも期待しています。酒を飲んで自分を解放するんだ、ルーク。




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with Theaterの支配人です。
7年間大手シネコンで劇場マネージャーを務めたのち、デザイン・マーケティングの仕事を経て独立。今でも映画館の仕事は素敵だと思っています。尊敬する人物はジャッキー・チェン。仕事でトム・クルーズに会った時に緊張し過ぎて顔が白くなった経験あり。