ダンス、友情、信頼、信念、誇り…植民地時代インドに現出した神話の物語『RRR』

みやざわ支配人

『バーフバリ』シリーズで一躍有名になったS.S.ラージャマウリ監督最新作がこの『RRR』だ。

3時間という長編作品にも関わらず、見ている間は長さを感じられないいや、感じる隙のない勢いと熱量が全編通して放出され続け、エンドロールを迎える頃にはすっかりインドの熱に心が炙られていた。そんな心も体も燃える物語について書いていく。

以下、映画のネタバレが含まれます。
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アツすぎる友情物語と、植民地時代インド

時は1920年、イギリスによるインド植民地時代。村に武器を持ち帰ると約束し大志を隠しながらイギリス警察官として働く男「ラーマ」と、連れ去られた少女を連れ戻そうと奮闘する先住民ゴーンド族出身の男「ビーム」との友情で物語ははじまる。二人は帝国主義を奮い非道を極めるイギリスという共通の敵を持っているが、信念の違いからすれ違ってしまう。しかし、お互いの背景を知ることで和解し、最後には手を取り合って共に戦う。

ラーマとビームは実在したインド革命家のモデルがいるが、実際には出会っていないという点から、この物語はフィクションであるということがわかる。

あらすじは至ってシンプルだが、物語がよりフィクション性を増してくるに従って「インド神話」が色濃く絡んでくる。二人の主人公はまるで漫画やインド神話絵画のような風貌に変わり「こんなことありえない!」超人的な力で制圧者を圧倒していくのだ。支配階層のイギリス人も、より威圧的に残忍に描かれており、もはやコミカルささえ感じる。THE 悪役が神話の神のようになった主人公にバッタバッタと倒されていく爽快感でエンドロールを迎えられるだろう。

長編大作だが、前半の友情と支配への蜂起から、後半へ続く闘争と神話への昇華と見どころがこれでもかと詰まっており、終始飽きずに見れる作りになっている。

フィクションに乗せられた「祈り」

映画のストーリーでは、インドを統治するイギリス人を気持ちよく倒し、ラーマとビームはそれぞれの本懐を遂げて終わる。エンドロールはこれが見たかったろう?とばかりに登場人物みんなで歌って踊り、背景にはインドの革命家の肖像が誇らしげに輝く。まさに映画のタイトル『RRR』蜂起(RISE)、咆哮(ROAR)、反乱(REVOLT)にふさわしい。

しかし、現実のインドは1947年に大英帝国からの独立を果たすも、複雑な歴史背景とナショナリズムが噛み合わず分裂してしまう。その禍根は深く今なお続き、国内でも問題は絶えない。そんな現状を思うと、立場は違えど固く手を取り合うラーマとビームに2つのフィクションが重なって見えた。一つは実際にその人物が出会っていないというミクロなフィクション。そしてイデオロギーによって分裂してしまったインドそのもののマクロなフィクションだ。

裏を返せばそれは、様々な理由で手を取りあうことができなかった現状への「祈り」かもしれない。物語は現実に繋がらない過去を描くが、理想だけに浮いた虚しさはない。

「祈り」を神話で包むことで、力強くポジティブで普遍的な説得力を持った素晴らしいスペクタクル映画が爆誕したのだ。

外連味たっぷりのキメ画!キメ画!キメ画!

本作は3時間ぶっ通しで外連味たっぷりの「カッコいい」画がどんどん繰り出される。どのシーンにも「キメ画」があり、大迫力でこちらに迫ってくる。その量ときたら。この映画一つのキメシーンであと三つ映画が撮れるのではないだろうか?

筆者のお気に入りは火の神と水の神になぞらえられたラーマとビームが、まさに火と水を背負って決闘するシーンだ。笑ってしまうくらい見得を切って向かい合う二人のかっこよさに酔いしれた。また、インド映画お約束の「ダンス」シーンもストーリーに組み込まれる形でしっかりあり、物語の高揚感も手伝って踊り出したくなるような躍動感がある。そんな熱に浮かされたい人はぜひ映画館でこの体験をして、神話の生まれる瞬間を目撃してほしい。




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with Theaterの支配人です。
7年間大手シネコンで劇場マネージャーを務めたのち、デザイン・マーケティングの仕事を経て独立。今でも映画館の仕事は素敵だと思っています。尊敬する人物はジャッキー・チェン。仕事でトム・クルーズに会った時に緊張し過ぎて顔が白くなった経験あり。