『ちはやふる 上の句』

みやざわ支配人

僕は別に邦画が嫌いなわけではありません。邦画にも面白いものはいっぱいあるし、過去の作品はいくらでも掘り下げる事ができます。だけど、積極的には観に行かなくなっています。

映画を観にいくとき、行くかどうかの決定はインサイド・ヘッドみたいに自分の中で会議を行い、事前情報で面白いと感じたものには減点法を行います。例えば行くタイミングがあるのか、近場で公開しているか。この引き幅が少ないので、大抵の映画は観に行きます。それが主に洋画で、邦画は滅多とありません。だからどちらかと言えば、邦画を観に行くときは加点法で観に行くかどうかを決定します。監督が信頼できるか、好きな役者が出ているか、等々。片っ端から公開している映画を観たいのですが、それは流石に財布と時間が許さず、限りある条件から出来るだけ映画館には足を運ぶようにしています。だって映画館で観たほうが面白い!

今回は加点法で観に行く事にした『ちはやふる 上の句』。面白いという噂を小耳にはさんだり、主題歌がPerfumeだったり、広瀬すずが主演だったり。様々な加点の結果、これは観に行かなければと地元の映画館まで自転車を走らせました。その感想です。

 

高校生になった綾瀬千早(広瀬すず)は、幼い頃から熱中していた競技かるたで高校全国大会を狙う為、競技かるた部を発足しようとする。てんやわんやしながら高校で再会した幼馴染のかるた仲間真島太一(野村周平)、古典オタクの大江奏(上白石萌音)、肉まんくんこと西田優征(矢本悠馬)、がり勉の机くんこと駒野勉(森永悠希)達と部を立ち上げ、試合に向けてかるたに打ち込む。千早の目標は、幼い頃太一と共にかるたのチームを組んでいた綿谷新(真剣佑)と全国大会で再会すること。かるた初心者である奏と机くんを引き連れ、千早は高校かるた大会の予選に挑む。

 

主演の広瀬すずちゃんは是枝監督の『海街diary』で凄いいい味を出していて、かなり期待しながら観にいったんですけど、今回はダメでしたね…。

『シェフ 三ツ星フードトラックはじめました』という映画がありまして、劇中で料理人の主人公が酷評してきた評論家に「俺だって一生懸命やってんだ!てめぇネットで文句ばっかり言ってんじゃねえよ!俺だって傷つくんだよ!」と言っていたのを聞いて、あんまり酷評というか一つの作品を叩くことに後ろめたさを感じるようになりました。だから、まずはこの映画のよかったところを挙げてみます。その前にですね、まずは予告編からいきます。

映画の本編前に流れる。僕はここの時点でかなり精神を侵されてしまって、もしかしたら『ちはやふる』もある程度色眼鏡をかけた状態で観ていたかもしれません。まず、少女漫画系の実写化とか旬の役者を多用した、女子を濡らす事しか考えてないようなクソ映画が多すぎ。さぶいぼが全身を覆うくらいの勢いで、矢継ぎ早に臭ったるい予告を流すもんで、僕の精神は本編が始まる前に12ラウンド目のロッキーくらいにはなっていました。

洋画を観るときは比較的洋画の予告が多いため、そこまで悪影響が無いのですがあれは酷すぎる。現代に蘇った石抱き拷問のようでした。トドメをさしたのは、『ズートピア』の予告。僕はこの映画自体は非常に楽しみにしているのですが、まーた頭の中がお金でいっぱいの連中がアナ雪方式の宣伝を繰り返してて、日本版テーマソングをご丁寧に歌詞付きで流してくれました。『インサイド・ヘッド』のときと言い、ディズニーさん、そろそろバシっと言ってやって下さいな。お前らいつまでやってんだ…。

そうでもしないと儲からないマーケットなんて、もう死んでるも同然なんだし一回死んでしまった方がいいんじゃないですかね。
話変わりますが、『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』の日本版テーマソングがどこかのテカテカ集団の片割れが担当らしいですね。もうお前ら絶対に許さねえからな。そう。『シェフ』。悪口ダメ、絶対。

 

本題に戻って『ちはやふる』のいいところを挙げます。まず最後のライバル校との試合のシーン。あそこは非常によかったです。登場人物それぞれが抱えていた不安や悔しさが一気に爆発する痛快なシーンについつい目頭が熱くなりました。特に机くん。典型的ながり勉キャラの彼が、仲間と共に何かを成し遂げようと必死になる演出は本当によかったです。太一の過去との決別も、千早の一度負けた相手に再度挑むところも、その総てが綺麗にあの一試合にまとまっていて、まるで『桐嶋、部活やめるってよ』のラストの屋上シーンのようでした。競技かるたという一回一回のやり取りが高速で終わってしまう競技に、使い古されたスローモーションの演出はピッタリでした。『ピンポン』でもやってるけど。

あと、やはり漫画原作を映像にするということは、次元が一段階上がり奥行が生まれ、そこに音や光、様々な現実的な要素が付与されます。こういった細かな演出をおざなりにすると、原作が面白いだけの映画になってしまいます。『ちはやふる』はそうではなく、かるたのスピード感や激しさが凄く伝わってきました。そこも良かったです。

 

じゃあ次に、これちょっとダメだったなとか、いやそれはおかしいだろって点を挙げていきます。まず、高校生感のリアリティが希薄なんです。高校を舞台にした青春映画はいくつもあれど、そこにリアルはありませんでした。『桐嶋、部活やめるってよ』で非常に繊細かつリアルに描かれていたあぁこういう奴いたいた感が全くなかったです。この作品にこれをそこまで求めるのも間違ってるけど。
このリアル感に関係した話ですが、兎に角登場人物が叫びすぎ走りすぎでドタばたとうっさい映画です。折角激しいかるた戦が熱く描かれているのに、他もうるさいから頭が痛くなりました。ここはもっとかるた戦以外の演出を抑制すればよりかるたの試合が際立ったんじゃないでしょうか。

あとまーこれはどうなんでしょうか。演技がわざとらしすぎるんですよ。広瀬すずちゃんとか、『海街 diary』ではすっごい良かったのに。やっぱり、喋りすぎなんですよ。所謂なんでもかんでも説明しちゃう病にかかった映画です。ネタバレになってしまいますが、ラストの太一が運命戦に挑むとこなんて、太一の「違う…そうじゃない…」ってセリフはいらないでしょ!所作でわかるじゃん!折角思いを直接言わずに歌に隠すカルタを題材にしてるのに勿体ない!

 

最後に、これはエンドロールを見てて思ったんですが、制作委員会の参加会社と人が多すぎやしないですか? あれだけ人や会社が多いと、一つの作品を作るにあたって方向性がばらけまくって、結局は誰にでも受けそうな映画になってしまうのも無理ないです。というかそもそも、映画前後編システムが最近多すぎるんですよ。3600円払って一つの作品観る事になるわけで、そんなアコギな商売してたら人は離れますって。

結構『ちはやふる』には期待していた半面、やっぱりまたこうなったかと落胆も大きかったです。もういっその事イケメン俳優が主観でずっと好きだぜとか離さないぜとか観客に語り掛けてくる映画作った方が手っ取り早いんじゃないですかね。ストーリー付きのAVの方がまだマシだ!




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with Theaterの支配人です。
7年間大手シネコンで劇場マネージャーを務めたのち、デザイン・マーケティングの仕事を経て独立。今でも映画館の仕事は素敵だと思っています。尊敬する人物はジャッキー・チェン。仕事でトム・クルーズに会った時に緊張し過ぎて顔が白くなった経験あり。