シャオヘイが選ぶ未来に涙|『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』レビュー

みやざわ支配人

2019年、TwitterなどのSNSを中心に密かに話題となっていた中国のアニメ映画をご存知だろうか。その映画のタイトルは、『羅小黒戦記』(ロシャオヘイセンキ)である。

当時は公開している劇場数が非常に少なく、チケットが売り出されれば即完売。観た人は口を揃えて絶賛し、その口コミはコアな映画ファンを中心に広まっていったのだ。

当時公開されていた字幕版の人気が影響したのか、なんと2020年11月に吹き替え版の上映が決定。公開劇場も一気に拡大し、今もなお全国各地で多くのファンを獲得している。

『羅小黒戦記』がこんなにも話題を集めたのは何故なのか、本記事ではその魅力について紹介していこう。

『羅小黒戦記』とは

はじめに、『羅小黒戦記』はどのようなストーリーなのかを確認しておこう。

あらすじ

主人公の小黒(シャオヘイ)は、黒い子猫の姿をした妖精。大きな化け猫にも、小さな人間の子供にも変身することができる彼は、人間による森林開発によって住処を奪われていた。

自分の居場所を探す旅に出ていた小黒は、同じく妖精である風息(フーシー)と出会う。風息の仲間である洛竹(ロジュ)や虚淮(シューファイ)も小黒を歓迎し、やっと自分が安心して暮らせる場を見つけたと思っていたが、最強の執行人・無限(ムゲン)が彼らの住む島を襲い、シャオヘイはまた一人ぼっちに。ムゲンは、シャオヘイを自身の館へと連れていくと言って海へ出るのだった。

道中、シャオヘイを捕獲対象であると勘違いしていたことに気づいたムゲンは、お詫びとして「異能力」の扱い方を伝授してゆき、互いを隔てていた怒りや不信感といった壁は次第に薄れていく。ムゲンに心を開きつつあるシャオヘイだったが、彼のもとに再びフーシーが現れ、さまざまな真実が明らかとなり……。

これまでにないバランスとテンポの良さ

『羅小黒戦記』の魅力としてまずはじめにあげられるのが、未だかつて観たことがないほどのバランスのよさ、そしてテンポの良さだ。

『羅小黒戦記』が描くテーマは、人間と妖精の共存、つまりは人間と自然の共生である。オブラートに包まず言ってしまえば、かなりありきたりな、これまでに多くのアニメーションで取り扱われてきたであろう内容だ。そんな手垢のついた題材を今更映画にしたのか?と思う人もいるかもしれない。しかしこの映画では、バランスの良さとテンポの良さで、そのテーマの陳腐さをまるっきり感じさせないのだ。

かわいらしくも愛おしい、ささやかな日常

『羅小黒戦記』では、ささやかな日常が随所に挟み込まれている。あたたかな火を仲間とともに囲んだり、大皿に盛り沢山の美味しい料理を平らげたり、バイクに揺られながら物思いに耽ったり……自分の居場所さえも失ってしまった少年、シャオヘイが出会っていくささやかな日常の一つひとつが、彼がこれからどのように生きていくのか、その答えの輪郭を縁取っていくのである。

シャオヘイはそのルックスや言動、行動の何を取ってもかわいらしく、ともに旅をするムゲンはクールでありながらも不器用で愛おしい。そんな二人の織りなす日々、そしてシャオヘイが居場所を見つけていくその過程は、どこか懐かしさにも似た優しさを感じさせるのだ。

大胆かつ細部まで冴え渡るアクションシーンの数々

シャオヘイが初めて出会っていくささやかな日常が随所で描かれている一方、高度なアクションシーンの数々もたっぷりと堪能することができる。

ささやかな日常からは、まるでスタジオジブリ作品のような繊細さとあたたかさを感じる一方で、バトルアクションシーンでは『ドラゴンボール』や『AKIRA』、さらには『NARUTO』ばりの豪快で大胆なシーンが続く。「そう来るか」と思わず唸ってしまうようなカメラワーク、動きの濃淡が華麗で躍動感に満ちたキャラクターたちを観ていると、中国アニメーションのクオリティの高さをひしひしと感じるだろう。

テンポよく繰り広げられる日常とアクション

『羅小黒戦記』では、シャオヘイがムゲンと心を通わせていくささやかな日常、そして鮮やかなアクションシーンの両者がテンポよく繰り広げられていき、作品自体にまったく間延び感がない。

ありきたりなテーマとはわかっていながらも、そのテンポの良さと両者のバランスの良さに完全に引き込まれてしまい、そこには「ありきたりなテーマなのになぜか新しい」という感覚すら残るのだ。

おそらく、日本アニメーションに近い細やかさを持ち合わせつつ、中国アニメーションらしい”予想も付かないスケールの大きさ”を感じられることも関係しているのだろう。

日常とアクション、繊細な世界観と壮大な世界観、何を取ってもバランスよく描かれているのである。

“心”を丁寧に描き切ったのが最大の勝因

日常やアクションをテンポよく描いただけでは、ここまで口コミが広がることはなかったかもしれない。当初ミニシアターでしか公開されていなかった『羅小黒戦記』が、これほどまでに熱烈な支持を得てきた最大の理由は、キャラクターたちの心を丁寧に描き切ったからであろう。

キャラクターたちのコミカルな動きに目を取られてしまうかもしれないが、実は彼らの一挙手一投足、ささいな表情の変化、投げられる視線の一つひとつにすら大きな意味が込められている。シャオヘイやムゲン、フーシーたちの心を決してあからさまに描いているわけではない。しかし、観終わった途端に「あ、あの時の視線って……」、「あのシーンの表情は、そういうことだったのか」と、それぞれのシーンが色づいていくのだ。繊細に彼らの心が描かれていたことに気づけた時、『羅小黒戦記』の凄みにハマってしまうのである。

日本語吹き替え版/字幕版どちらもおすすめ

現在、日本全国の多くの劇場で日本語吹き替え版が公開されているが、主人公・シャオヘイ役には花澤香菜、ムゲン役は宮野真守、フーシー役を櫻井孝宏が務めるほか、斉藤壮馬や松岡禎丞、杉田智和、さらには大塚芳忠など豪華声優陣が勢揃い。普段は女性キャラクターを演じることの多い花澤香菜だが、幼き少年の声を見事に演じ切っている。

また、昨年公開されていた中国語音声・日本語字幕版も、いくつかの劇場で再上映が決定。中国語版シャオヘイの声も非常にキュートなので、こちらもあわせて楽しもう。

シャオヘイの選ぶ未来は?

『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』は、日本全国の劇場にて絶賛公開中。シャオヘイが見つけた自分の居場所とは、そして未来とは何なのかをぜひ見届けてほしい。




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with Theaterの支配人です。
7年間大手シネコンで劇場マネージャーを務めたのち、デザイン・マーケティングの仕事を経て独立。今でも映画館の仕事は素敵だと思っています。尊敬する人物はジャッキー・チェン。仕事でトム・クルーズに会った時に緊張し過ぎて顔が白くなった経験あり。