人類はついに猿の感情を創造した『猿の惑星:聖戦紀』

みやざわ支配人

人類はついに猿の感情を創造した『猿の惑星:聖戦紀』

※ネタバレなし
猿の惑星新サーガ。『猿の惑星:創生紀』そして『猿の惑星:新世紀』。待ってました、現在公開中の『猿の惑星:聖戦紀』。
愛しい喋るチンパンジーのシーザーくんの物語はここで終結です。ここからはダイレクトに猿の惑星シリーズへと繋がるのですが、そもそもシリーズものの一編だけを切り取ってご紹介するのは気がひける…。
という訳で今回は、『猿の惑星:聖戦紀』の感想を踏まえつつ、あれ?あれって誰?あの猿何?ってところをまとめていこうかなと思います。

 

猿の惑星サーガまとめ

まずは、猿の惑星の新サーガがどの様な経緯で公開されてきたか順を追ってまとめてみましょう。

『猿の惑星:創世紀』(原題:Rise of the Planet of the Apes)
まずはこの作品が2011年に公開されました。猿の惑星シリーズといえば、初代は1968年に公開されたフランクリン・J・シャフナー監督の第1作からティム・バートン監督まで脈々と続くSF映画の金字塔とされてきました。(原作小説ピエール・ブール著)
僕自身は、この『猿の惑星:創世紀』が所謂現在進行形で観た猿の惑星シリーズとなります。公開当初、昔一度観ただけの猿の惑星シリーズを観直して、鑑賞に至りましたが、VFXやらパフォーマンス・キャプチャの凄さに驚きました。

一作目の内容は、往年の猿の惑星シリーズとは大きく舵を切り、舞台は現代。主人公のウィル(ジェームズ・フランコ)はアルツハイマー遺伝子治療薬をチンパンジーで臨床実験します。被験猿はブライトアイズというチンパンジー。薬の効果で知能が上がり、その子供シーザーも劇的に知能が発達します。(ジェームズ・フランコだからと言って不真面目なクスリではない)
このシーザーが可愛いの何の!テーブルで家族と一緒にご飯を食べる姿が何とも言えません。しかし、シーザーには辛い人生が待っていました。シーザーは、チンパンジーとして実験動物たち(主に霊長類)を率いて森へ帰ります。これが、猿の惑星新サーガ、いや、シーザー・サーガの始まりです。
人間の傲慢から生まれた猿の悲運を描いた作品で、猿の惑星シリーズを知っている方からすれば、その序章がやたらとリアリティ溢れた描写で描かれていてゾゾッとしたはず。
この作品では、まだ主人公は猿と人で半々くらいでした。

この作品の大事な登場猿は以下。
モーリス:霊長類保護施設で出会った手話が使えるオラウータン。
ロケット:施設のボス猿。シーザーに負けて降格。喋る猿には敵いません。
コバ:みんな大好き、ボノボ。ひどい実験を受け、勝新太郎みたいな風貌。この後のシーザーの人生を苦しめる。

『猿の惑星:新世紀』(原題:Dawn of the Planet of the Apes)
いよいよ主人公が猿へと移っていきます。一作目から10年後、猿インフルエンザで絶滅寸前になった人間は、猿の存在を恐れるようになりました。しかしシーザーは争いを望まず、放っておいてくれという態度。それもそのはず、猿の社会はシーザーを起点にしっかりと成立していて、平和な暮らしを送っていました。しかし、人間を憎んでいるコバが反乱を起こし、人間対猿の戦争が始まってしまいます。この作品ではシーザーは流暢に英語を話し、険しい顔や悲しい顔など、とても表情豊かでした。そして、『猿の惑星:聖戦紀』へと続きます…。

『猿の惑星:聖戦紀』(原題:War for the Planet of the Apes)感想

 

さて、シーザー・サーガも今作で終わりを迎えます。施設に入れられたり、家族を持ったり、森で社会を形成したり、色々なホーム(家)を転々としてきたシーザー氏。初回作品から作品内でもう十数年経っているため、白ひげを蓄えて、まるで『メタル・ギア・ソリッド』のオールド・スネークみたいな百戦錬磨の風貌に…。息子も大きくなり、猿のリーダーとしてしっかりと責務を果たしていました。
この作品、最も凄まじいところが、猿の感情を、猿を主人公としてしっかりと描いているところです。撮影技術の発達と、アンディ・サーキス(シーザー役)の貢献で、CGの猿が怖いほどリアルです。VFX担当はダン・レモン氏。『ロード・オブ・ザ・リング』や『アバター』でVFXを担当するハリウッドの視覚効果第一人者です。
さらに、人間ドラマならぬ猿ドラマとして、前作までは存在しなかったコメディ担当のバッド・エイプの登場など、猿だけでエンターテイメントとして成り立つようになっていました。むしろ人間は脇役気味。

SF映画や小説は、「もし」を語る作品です。「もし、時間が戻せたら?」「もし、宇宙戦争が起こったら?」。「もし」を現実の本当のことのように肉付けするのは、『火星の人』の科学的なリアリティ描写か、フィリップ・K・ディックなどのSF小説における人間描写などです。
馬鹿げた発想である「もし」を、より説得力を持たせるために作家や映画屋の方々は様々な技術や知識を使っています。
猿の惑星サーガは、猿が地球を支配したら?という「もし」を人間社会への風刺や、特撮映像を使った映画などで肉付けしてきました。この「もし」はあくまでも猿が世界を支配するという事実をより説得力を持たせるために費やされてきましたが、猿の惑星新サーガ以降、チンパンジーの感情表現を俳優の演技の様に「猿の感情を創造する」ということに力を入れてきました。ダン・レモン氏や優秀な俳優たちにより、猿がもし知性を持っていれば、嬉しい時こういう風な顔をする、こんな動きで戸惑いを表現する、など真っ向から、真剣に考えられてきました。そしてその猿の表情、CG描写は今作『猿の惑星:聖戦紀』で極限に達しています。堂々として猿の顔の寄りの画。CGの猿だけで一本の映画が成り立っているのです。
人類の創造はついに、猿の感情を創造するまでに至ったのです。SF好きとしては至高の瞬間です。

『猿の惑星:聖戦紀』は全国劇場で公開中です。観る前に猿の惑星新サーガ二作品だけでも観直すことをお勧めします!




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with Theaterの支配人です。
7年間大手シネコンで劇場マネージャーを務めたのち、デザイン・マーケティングの仕事を経て独立。今でも映画館の仕事は素敵だと思っています。尊敬する人物はジャッキー・チェン。仕事でトム・クルーズに会った時に緊張し過ぎて顔が白くなった経験あり。