ドクター・ストレンジ2作目となる『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』を見てきた。
全体に広がるアジアンファンタジー風味や、グロテスクで目眩がしそうなイリュージョンワールド、魔術師同士の派手なバトル等、ストレンジ作品で見たい要素に、サム・ライミ監督の個性がバッチリハマっていて大満足だった。
個人的に今回のヴィラン(悪役)であるスカーレット・ウィッチは、簡単に悪と決めつけるには筆者の思い入れが有りすぎ、見た後に「正義とはなんだろう」と考えさせられた。
映画全体に広がる「趣味の悪いホラー」感

冒頭から大きな一ツ目のタコが現れ街で大暴れ。目玉をくり抜いて倒すが怪物にはルーン文字が…。もうここだけで中学生の頃に考えた気持ち悪い怪物を高クオリティで再現したようで最高だ。
タコのお化けはほんの序の口で、後半はヴィランと化したワンダ=スカーレット・ウィッチが、ストレンジ達を文字通り地の底まで追いかけてくる。スカーレット・ウィッチの強力で妖しい能力の表現としてホラーの手法が使われ、その恐ろしさがビンビン伝わってくる。鏡から這い出してくるシーンは『リング』の貞子や『呪怨』の伽耶子を連想した人も多いのでは?挙げ句の果ては、ヒーローであるストレンジが死体に憑依、ゾンビ化し悪霊を使役して戦う。文字にするとなんて陳腐さ。でも画面で見るとかっこいい。
その他ホラー映画お決まりの演出が多数散りばめられ、ヒーロー映画としては異質な印象を受けるが、そもそも「魔術師」が主人公のドクター・ストレンジシリーズにとてもマッチしていた。
お気に入りのシーンはやはり、音符や五線譜が飛び交う音楽対決。ディズニー映画『ファンタジア』の幻想の世界が具現化したようだった。
今後のMCUを追うにはドラマや原作を抑えとかなくてはならない…?
今回話題になっていたことのひとつに、ディズニー+で配信されているドラマ「ワンダヴィジョン」との繋がりがある。
筆者は「ワンダビジョン」を視聴して映画を見たが、正直これからもドラマを全部抑えた上で見れるかはわからない。こういった、視聴しなければ100%楽しめないコンテンツがあるシリーズ展開へ、是非が出るのはもっともだ。さらに、マルチバース設定によりシリーズを超えたサプライズキャラクターの登場も…。だがそのサプライズは、キャラクターを知っていないと成り立たない。
この「サイドストーリーを見ていないと解らないところがある」には、そもそも映画を見るという行為の本質があるような気がした。何かを感じる/理解するには自分の中に蓄積された知識が必要だ。15歳と30歳が同じ映画を見て得られる情報量はかなり違うだろう。そもそも全ての人の知識量に差がある状態で映画を見ているのだ。
今作では、ストレンジの物語と映画の娯楽性は、作品の中だけで十分に語られていたと感じた。今後も本筋がひとつの映画に収まっている作品が作られ続ければ、ドラマや原作などを知らなくても、鑑賞者自身が持っている知識で楽しめるものになるのではないだろうか。
これから映画をご覧になる方は、ネタバレが含まれることをご確認のうえ、お読みください。
ストレンジから学ぶ「大人の身の振り方」
ドクター・ストレンジというヒーローは、一般的に「ヒーロー」から想像できる性格からは少し(?)ズレるキャラクターだ。能力の高さ故に傲慢で、好奇心から禁断の魔術に手を出してしまうこともしばしば。前回登場の『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』では大学生のピーター・パーカーを子供扱いするが、そのくせ適切な助言や手助けが出来ていない。別バースのストレンジ(別の世界のあり得たかもしれない自分)達も、その性質の為に散々な目に遭っているようだった。
今作のストレンジは、異次元を旅し様々な「別の自分」が招いた結果を見ることで、かつての恋人クリスティーンに「助けてほしい」と素直に言うことができた。さらに、若いアメリカ・チャベスに能力の使い方を助言し、スカーレット・ウィッチとの決着を委ねている。
大人になると、成功経験をある程度積んで自分で人生を運転できるようになる。だがその経験を持った上で、自分以外の誰かを信用し抱えてるものを共有すると、さらに良い結果を引き寄せられるかもしれない。そんな風に思わせてくれる、ストレンジの変化だった。
ところで、言ってしまえば「傲慢なヒーロー」であるストレンジが愛おしいのは、ひとえにベネディクト・カンバーバッチのお陰だろう。改めて役者の魅力に乾杯。
幸せになってほしいと思わせるヴィラン
今作のヴィランは、シリーズを通して成長を見てきたキャラクターが、俗に言う「闇堕ち」した形で登場した。
全世界に及ぼす悪影響を顧みず「自分の子供が欲しい」というエゴの為に暴走する行為は、一見すると褒められたものではない。ホラー演出の効果もあり、この作品の中では恐ろしい魔女として立ちはだかる。
だが、これまでのシリーズで彼女の報われない人生を見てきた人には、ただのエゴで片付けられなかったはずだ。筆者もそのひとりである。
多くの幸せの為に、自分の人生が犠牲になったスカーレット・ウィッチ=ワンダが、ストレンジに放つ「偽善者」の一言は重く、ヒーローの大義と個人の幸せについて考えさせられる。別バースの自分を見て成長したストレンジに対して、別バースの自分に過ちを悟され、事態の収拾と共に自らを封印せざるを得なかったワンダ。
冒頭と最後でストレンジに「幸せか?」という問いかけが投げかけられる。ヒーローは勝利し幸せを得るが、ヴィランは果たして…?見終わった後、暴走した彼女を悟す、別バースのワンダのセリフ「They’ll be loved」の捉え方を何度も考えた。
イリュージョンな視覚効果を映画館で
前作の『ドクター・ストレンジ』(ストレンジシリーズ1作目)を映画館で見たとき「こんな視覚効果が作れるのか!」と興奮したことを覚えている。
今作もそれに劣らぬ、もしかしたらそれ以上のイリュージョンな世界が次々と展開されていた。新キャラクターの「アメリカ・チャベス」と異次元を旅するような気分を、ぜひ映画館で味わってみてほしい。