人はなぜ人なのか?『ブレードランナー2049』

みやざわ支配人

※ネタバレあり

『ブレードランナー』の初期作は1982年に公開された。
それは一つの問いかけでもあった。
「人が人である証明は?」
その問題提起はとても大きく、人類が文明を持って数千年経っても明確な答えはない。
この問いは様々な形で言い換えられる。
「生きる意味は?」
「人生の目標は?」
「死ぬまでにしたいことは?」
「あなたの個性は?」
「デッカードは人間なの?」
時代を超えて、形を変えて、物語を変えてそれは問いかけられる。

映画は問いかける

 

僕は映画が好きだ。エンターテイメントの側面も、芸術の側面も、色々な見方ができるから。
さらに良い映画は問いかけてくる。それは製作者の意図しない問いかもしれないし、製作者がずっと悩んでいたことかもしれない。映画の良し悪しは決して興行収入や出ている人気俳優に左右されない。映画を観て、考えることができるか、心に突っかかる何かがあるかが大切だ。
『ブレードランナー2049』は今一度問いかけてきた。なるべくCGを使わない撮影と言っても、洗練された映像技術で2049年の未来を想像しながら、『ブレードランナー』にあった本質の問題を掘り下げている。

『ブレードランナー』公開当初僕は生まれてもいない。精子でもなかった。それでも、初めてこの映画を観た時に何だか気持ちの悪い気分になった。
『ブレードランナー2049』を観終わった今、その気持ち悪さが何となくわかったような気がした。

主人公のジョー(K)はレプリカントである。旧型のレプリカントを解任(抹殺)する仕事を警察の捜査官として行っている。レプリカントはロボットだ。ロボットと言っても、心も共感能力も科学の力で備えられている。
ジョーは愛することもするし、痛みも感じる。生き物を殺してしまうと可哀想だという気持ちもある。彼の心の拠り所はホログラムで出来た女性、ジョイ。
『ブレードランナー』とは違い、『ブレードランナー2049』の主人公ははっきりとレプリカントなのだ。彼を取り巻く人の多くもジョイの様に人間ではない。

映画を観るとき、多くの人は登場人物に感情移入をする。同じ悩みを抱え、同じ様な境遇を生きている架空の人を見つけたときに、自分と重ね合わせるからだ。
しかしそれは人間でなくてもいい。『アイアン・ジャイアント』『トイ・ストーリー』『チャッピー』『ピノキオ』。多くの映画がそうだ。
ジョーも必死で自分の中身を探す。ディストピアの世界で、アイデンティティを模索する。ジョーの支えである美しいジョイも自分の肉体を探す。ジョーは精神的に、ジョイは肉体的にアイデンティティを追求していく。

物語は、問いを残して終わるパターンと、明らかな回答を示すパターンがある。僕はそのどちらも問いかけではあると思っている。『ブレードランナー2049』は後者である。主人公は一つの結論を出したが、君はどう思う?そこから問いかけがスタートする。

『ブレードランナー』では、レプリカントと人間を対比することで、人間とは何か?という恐ろしい問いかけをした。人間より人間らしいレプリカントや、デッカードの素性の分からなさ。
『ブレードランナー2049』も、同じ問いをする。人間とは何なのか?魂とは?

『ブレラン』公開当初の熱を知らなくても大丈夫

 

『ブレードランナー』82年版公開時、ビジュアル的にも内容的にもかなりの衝撃が走ったに違いない。僕自身、その時の熱量は知らない。しかし、今多くの作品がご丁寧に現代的にアレンジされて、平成っ子でも観やすく、受け取りやすい形になって公開されている。『ロッキー』シリーズの続編『クリード』もそうだ。『ロッキー』をDVDでしか観ていない世代でも、『クリード』を観ることで『ロッキー』の熱さは受け取れる。
『ブレードランナー』もそうである。『ブレードランナー2049』を観ることで、今改めて同じ問いを感じ、仲間と話し盛り上がることができる。きちんとした続編を作ってくれている製作者の方々には頭が上がらない。
『ロッキー』しかり、『ブレードランナー』しかり、時代を超えてその問いかけを感じれるのは、その問い自体が人間の本質に迫るもので、いわば人生を通して向き合い続けなければいけない問題でもあるからだ。

『ブレードランナー2049』のジョーの悩みは現代人にも通じる。上司にやれと言われてやっている、自分のアイデンティティがわからない、生きる大義が無い。
ジョーはレプリカントなのに、今の人間と同じことを考えている。
そこに注目してこの映画を観ると、なんとも不思議で怖い感覚になるかもしれない。

だから今回『ブレードランナー2049』を観た時に感じたこの感覚は、ずっと向き合っていきたいとは個人的に思う。何度も何度も牛みたいに噛み続けて、味わいたい。

まとめ

 

『ブレードランナー2049』は『クリード』と同じく優れたリブート作品でも、続編でもある。
だけどやっぱり観る前に、必ず『ブレードランナー』は観ておいたほうがいい。いろいろなバージョンがあるが、何度観ても面白いので、時間に余裕があれば全てのバージョンを観た方がいい。




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with Theaterの支配人です。
7年間大手シネコンで劇場マネージャーを務めたのち、デザイン・マーケティングの仕事を経て独立。今でも映画館の仕事は素敵だと思っています。尊敬する人物はジャッキー・チェン。仕事でトム・クルーズに会った時に緊張し過ぎて顔が白くなった経験あり。