「なぜ、この時間に上映が…」映画館の上映スケジュールはこうやって決まる!

みやざわ支配人

映画館の上映スケジュールがどうやって決まっているのか。気にした事はありますか?

直接、上映スケジュールの決まり方を気にした事がない方でも「自分の見たい時間に上映してない…」「なんで、こんな時間にしか上映がないんだろう…」と感じた事はあると思います。

今日は、そんな”映画館の上映スケジュール”について、運営側はどんな事を考えて決定しているのかご紹介していきます。

大原則

 

具体的に上映スケジュールの決まり方を説明する前に、絶対的に決まっている事がいくつかあるので、まずはこれらに触れておきます。

1週間ごとに決定

映画館の上映スケジュールは、必ず1週間ごとに決定します。

シネコンの場合、ほぼ毎週新作映画の公開があります。新作の公開に合わせて毎週スケジュールを帰る必要があるので当然なのですが、まだ浸透してないところもあるので覚えておいてください。

この1週間の単位は【土曜日〜金曜日まで】になる場合がほとんどです。金曜日に新作が多く公開される場合や、人気作の公開が金曜にある場合などは、【金曜日〜翌金曜日】となる場合もあります。

補足ですが、最近では洋画は金曜公開が多いので、通常の1週間の単位を【金曜日〜木曜日】としている劇場もあるので、ご注意ください。

公開されるのは火曜日

【土曜日〜金曜日】の1週間分の上映スケジュールが一般に公開されるのは、だいたい火曜日です。

週末に公開された新作の動員を見て、翌週の新作との兼ね合いを決めていくのが月曜日になるためです。

映画館は週末が当然多くお客様が来られるので、そこで新作がどれくらい人気があるのかを判断してから翌週のスケジュールを決めているという事ですね。

決めるのは支配人と本部

上映スケジュールは、その劇場の収益や現場の運営に大きな影響を与えるものなので、支配人(もしくは副支配人)と本部の担当者で決定されます。

現場の事を理解している支配人と、配給会社との制約等を理解している本部の担当者で、最も良い形を決定するわけです。

上映の間隔

上映終了から、次の上映スタートまでの間隔は最低でも20分必要です。理想は30分です。

上映が終了してお客様が全員退出するまで「10分」。清掃に「10分」。次の上映回の入場に「10分」が必要になるからです。

お客様の退出と清掃をそれぞれ「5分」に短縮する事で、【間隔20分】はなんとか成立しますが、スタッフが大変なので、取れる時は間隔を30分空けています。

配給会社との取り決め

 

上映スケジュールの大原則をご理解頂いたところで、具体的な上映スケジュールの決まり方についてご紹介していきます。

まずは、映画を配給している配給会社と映画館との取り決めについてです。

上映期間

映画の公開日は全国一律で決まっていても、終了日は劇場によってバラバラです。早ければ2〜3週間で終わり、長ければ2ヶ月以上上映するものもあります。

この上映期間は明記こそされませんが、配給会社との間で「最低でも●週間は上映」と決められている場合があります。

その劇場がどこの系列の劇場か、配給はどこか…など、政治的な背景もあるので一概には言えませんが、上映スケジュールを考える上では重要なポイントの1つです。

悪い言い方をすると、動員が全然ないのに上映は続けないければいけない…という劇場にとっては辛い状況が生まれてしまう場合もあります。

1日の上映回数

これも配給会社との間で決められている事があります。

特に公開初週は、朝から晩まで上映間隔パツパツで回さないといけないような条件の場合もあります。

公開初週の上映シアター

上映シアターと言っても、「●番シアターで上映してね」というものではなく、その劇場のメイン館(収容人数が1番大きなシアター)で上映する事が条件になっている場合があるという事です。

前述の『1日の上映回数』も同じですが、配給会社はその映画のチケットが売れるほど収入が発生するわけで、当然”1回でも多くの上映”と”1名でも多く収容できるシアター”を確保したいのが本音です。

そして、「公開初日で興行収入●●●●円突破!」や「動員●●●●名突破!」と広告を打ち、2週目以降の動員へ繋げていきたいわけですね。

現場との兼ね合い

 

これらの条件をクリアして、ようやく劇場の都合を考えられるようになります。

ここからは、上映スケジュールを決める際に考慮する劇場運営側の視点を見ていきます。

動員と来場層の予測

上映スケジュールを組む際に最も気にしなければいけないのが、この予測です。

その作品はどれくらい人気で、どれくらいのお客様がうちの劇場に来てくれて、どれくらいの年齢層のお客様が来られるのか。この予測が全てを左右します。

このあたりの数字の予測は、配給が作品に対して全国的な興行収入の目安を出しているので、そこから逆算して算出します。

映画館には『全国の興行収入のうち、この劇場は●%くらい』というデータが既にあるので、それに基づいて計算し、1日の上映回数や上映シアターを決めていきます。

大型連休などで、人気作が多く公開されるタイミングでは、より緻密な計算が求められます。上映シアターの選択を間違えて、満席でチケットが売れなくなった…なんて最悪の事態ですよね。

また、来場層の予測も非常に大切です。

家族連れが多く来場されそうな作品であれば、売店の利用率が高いので仕入れの数を増やしたり…アニメ作品ならグッズの仕入れを増やしたり…作品に応じて、それぞれのセクションも準備をする事になります。

同時スタート

同時スタートとは、同じ時間に複数の上映回がスタートする事です。

かつて、フィルムの映写機で上映していた頃は、人間の手で映写機をスタートさせていたので、【映写技師の人数=同時に上映を開始出来る上限数】でした。

例えば、映写技師が2人しかいないのに、10:00〜スタートする作品を3つ以上に設定する事は出来ませんよね。

今はデジタル映写機の導入により、上映スタートも全自動。同時スタートがいくつあっても問題なしなんですが、そんな事は絶対にしません。

1番の理由は売店の混雑です。

大半のお客様が、入場開始のアナウンスを聞いて売店でポップコーンなどを購入します。もし、5つも6つも同時に入場が開始されたらどうでしょう。

その作品に入場されるお客様が一気に売店に並び、すぐに行列が出来てしまいます。これはお客様にとっても、劇場にとっても良くない事なので、同時スタートはせいぜい2〜3くらいです。

もう1つの理由は、チェック体制です。

上映が開始されるとフロアスタッフがシアター内に入り、映像や音響に問題がないか確認するわけですが、同時にたくさんのシアターがスタートしてしまうと、その分だけ人数が必要になります。

この2つの理由から、同時スタートを避けるため、上手に10分ずつくらいスタートをズラす必要があるんです。

レイトショー

最後はレイトショーについてです。

お仕事をされている方なんかは、特にレイトショーで映画を観に行く事も多いと思います。なので、大人向けの作品はレイトショーに回す事が多く、特に洋画の字幕上映なんかはレイトショーに入っている事が多いですね。

間違っても、アンパンマンやトーマスをレイトショーで上映することはないでしょう。

もう1つ、レイトショーで考えなければいけない事があります。「レイトショーの上映終了時間」です。

地域によって条例は異なるのですが、【23:00以降、18歳未満の子供は保護者同伴でも外出禁止】などの青少年保護育成条例があります。

もちろん映画館もこの条例を守る必要があり、上映終了時刻が条例で定められている時間を超える場合は対象の子供を入場させる事が出来ません。

ここで考えなければいけないのは、子供にも大人にも人気があるような作品の場合です。ディズニー作品やコナンくん、ハリウッドの人気作品などですね。

こういった子供も入場するような可能性のある作品は、なるべく条例に掛からない時間に上映が終わるようにレイトショーの設定をします。

お父さんがレイトショーに子供を連れて観に来るなんてパターンが結構あるので、ここにも気をつけて上映時間を決めています。

実際の上映スケジュールを見てみよう!

実際の上映スケジュール

上映スケジュールの決まり方を理解して頂いたうえで、最後に実際の上映スケジュールを見てみましょう。

こちらは、とある劇場の上映スケジュールの一部を抜粋したものです。(全部を出すと非常に見づらくなったので一部抜粋にしました)

Point 1:同時スタートがない

売店の混雑などの理由から同時スタートはあまり作らない方が良い。とご説明しましたが、こちらの劇場はキレイに1つも同時スタートがないですね。

Point 2:間隔が狭い!?

このスケジュールでは「七つの大罪」の2回目と3回目の上映間隔が10分しかないですね。

もちろん、このままでは現場が回らないのでカラクリがあります。実はこの2回目と3回目の上映回は別のシアターでの上映です。

フィルムではありえない事ですが、デジタル上映ならシアターの変更がデータ1つで自由自在なので、このように別のシアターで上映する事でうまくスケジュールを組む事も可能なんです。

Point3:微妙な時間の上映

19:35〜スタートの「七つの大罪」がありますね。

これだとレイトショーになりません…レイトショーは20時以降の上映回が割引になるサービスなので、上映開始時刻としては微妙です。

終了が21:35なので、恐らくこの後に別の作品でレイトショーを回すものと思います。アニメ作品なので、レイトショーは不要という判断のもとで、こういうスケジュールになっているんでしょうね。

Point 4:条例に引っかかるレイトショー

21:45〜スタートの「オーシャンズ8(字幕)」終了が23:00を超えるので、ほとんどの地域で条例に引っかかります。

これは、先ほどのアニメ作品と反対に、洋画で字幕なので未成年のニーズがないと判断して、この時間の上映にしている可能性が高いですね。

Point 5:条例に引っかからないレイトショー

先ほどの「オーシャンズ8(字幕)」とは逆に、こちらは23:00に終了する「コードブルー」。

主演が山Pですし、他にも中高生に人気の高いキャストなので、未成年でも入場できるレイトショーのニーズがあるという判断です。

Point 6:パツパツの間隔

『配給会社との取り決め』のところで触れた、上映間隔についてです。

「コードブルー」の上映間隔が、全てキレイに20分になっています。これが、いわゆるパツパツの間隔です。

Point 7:終われない作品

「ポケモン」が日中の時間帯に1回だけ上映されています。

何とも言えませんが、『配給との取り決め』で触れた上映期間の部分に当てはまる状態かもしれません。

既に公開から1ヶ月以上経っているので、正直それほど動員は見込めません…終了予定の表記もなかったので、少なくともまだ1〜2週は上映があるのでしょう。

最後に

映画館の上映スケジュールの決まり方をご紹介しました。

上映スケジュールの作成は、めちゃくちゃ難しいテトリスのようなものです。1つの予測、1つの選択のミスが劇場の運営に大きな影響を与えます。

レイトショーは、特に劇場でもトラブルが多いので、お客様のニーズを過去のデータから的確に予測する必要があります。

ちなみに、ぼくは超人気のアニメーション作品公開時に字幕と吹替で、字幕の方が人気が出ると予測し、それが大外れ…吹替だけ満席が続くという地獄を見た事があります…

雪だるまつくろう。。。




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わたしが書きました。

with Theaterの支配人です。
7年間大手シネコンで劇場マネージャーを務めたのち、デザイン・マーケティングの仕事を経て独立。今でも映画館の仕事は素敵だと思っています。尊敬する人物はジャッキー・チェン。仕事でトム・クルーズに会った時に緊張し過ぎて顔が白くなった経験あり。