人々が映画を観に行く理由。ジェームズ・ガン監督の騒動から考える

みやざわ支配人

皆さんは、なぜ映画を観に行くのでしょうか?そんなこと、考えたことありますか?好きな俳優が出ているから。好きな監督が撮ったから。予告を観て面白そうだから。様々な理由があると思います。

世の中便利になって、動画配信サイトで映画を観れる時代になったのに、わざわざチケット代を払って映画を観に行く。これって凄く時代に逆行していると思いませんか?

この記事では、なぜ人々が映画を観に行くのか、何を求めて映画館に行くのか。これを先日起きたジェームズ・ガン監督の降板騒動を元に、映画館で長年働いていた僕が実際のお客様から聞いた声と合わせて、考えていこうと思います。

人々が映画へ行く理由

 

なぜ多くの人は映画館へ映画を観に行くのでしょうか。理由は人の数ほどありますが、代表的なものを挙げていきます。

話題性

テレビCMで流れていた予告を観て、人から聞いて、SNSで情報を観て。映画が公開された後に、その話題性から観に行く人も多くいます。

この話題性というのはとても重要で、例えば『桐島、部活やめるってよ』や『この世界の片隅で』など、元々広告費がハリウッド映画ほどかかっていない映画でも、口コミなどの話題性で異例のロングランヒットを生み出すこととなります。

何かのファン

これは最もわかりやすい理由です。俳優や女優のファンである、監督のファンである、主題歌を歌っているアーティストのファンである、などです。

逆に言ってしまえば、ファンであれば観に来る確率は非常に高くなります。これが日本の映画の現状の集客力の一つになっています。某タレント事務所の俳優が主演の映画や、今旬の若手イケメンの映画。”出演するだけである程度の集客力が見込める”映画になるんですね。

暇つぶし

意外とこちらも多いと思います。なんとなく時間が空いているから、映画を観に行く。こういった方々は映画の内容はそこまで関係なく、本当の時間潰しで映画館へ足を運びます。

ただこういった方々も、暇つぶしで映画に行っている間に、コアなファンになる可能性を秘めています。

ジェームズ・ガン監督の件

 

映画を映画館へ観に行く理由をお話ししたところで、ある騒動を挙げてみます。

過去のツイッターの発言で解雇

ジェームズ・ガン監督といえば、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の監督で成功を収め、一連のマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)の立役者的な存在となっていました。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でも共同制作者として名を連ねており、今後のMCUに大きく関わっていくことが期待されていました。

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2018年4月30日

ガン監督は過去にツイッターで酷いジョークをつぶやき続けていて、以前にもそれを公にして謝罪をしていました。現在もガン監督はトランプ大統領への批判ツイートを数多くつぶやいています。

今回、アメリカの右翼派のあるコメンテーターがガン監督の過去のツイートを取り上げ、それが炎上し、ガン監督はディズニーから解雇を言い渡され『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.3』から降板してしまいました。

署名運動まで起きている

ネット上ではたちまちこの解雇劇は話題になり、ガン監督やMCUのファンからガン監督復帰の署名運動が起きたりしています。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズのドラックス役のデイブ・バウティスタなどもツイッター上でガン監督を支援する声を挙げています。

ここまで発展しているニュース情報は本記事からの主旨から逸れてしまいますので割愛しますが、この一件を要約すると、「右派のコメンテーターから攻撃を受け、ガン監督の過去の横行が暴かれ、ディズニーが解雇した」という流れになります。

ただし注目すべき点は、ガン監督自身が過去のツイートを反省し、後悔しています。自分は10年前とは変わったかわわからないが、より良い人間になる努力はしている、とインタビューにも答えていました。さらに今回の自体を、ガン監督自身は受け入れ、より真っ当な人間になれるように努めると述べています。

映画館という”場”

 

話を本記事の主題に戻します。人々が映画へ行く理由を挙げましたが、では映画館という場はどういうところなのでしょうか。

共有性の強い場所

映画館というのは、映画という作品を観に行く場所です。行く理由は前述の通り様々ありますが、なぜここまで動画配信サイトが流行っているのに未だに映画館に行く人々は多いのでしょうか?

観たい作品の上映回に合わせて予定を組み、車や電車で映画館に行って、チケットを買って、やっとの思いで観れる。しかも映画館にはマナーの悪い人もいるかもしれない。一人でゆっくり観れることはない。なぜこんなに面倒臭い思いをしてまで行くのか。

僕はその理由の一つに映画館から発生する共有性の強さがあると思います。単純にでかい画面で観たいという人もいますが、映画館とは暗闇で赤の他人同士が同じ画面を共有します。観終わった後に、そこには多くの知らない人がいる。けど、多分同じことを感じているかもしれない。

さらに帰りにSNSをチェックしてみんなの感想や意見をチェックする。そこで共感できることがあれば、日本や世界で同じことを考えている人がいるのだと安心できる。数多ある動画配信サイトやDVDのレンタルではなかなかタイミングよく共有できない即効性があるのです。

映画は体験である

これもよく言われていることなのですが、映画は鑑賞の域を越えて体験することでもあります。映画は鑑賞環境自体がかなり特殊です。公共性があるのに、美術館や博物館など展示物が多い施設とは違い、一つの作品をみんなで観る。

作品に心打たれる人も、そうでない人も、その場その限りで一緒に笑ったり一緒に泣いたりできるのです。映画の父と言われるリュミエール兄弟が『ラ・シオタ駅への列車の到着』を上映した時、初めて映画を観た人は騒ぐほど驚いたという話も残っています。

映画とは、一種の体験なのです。その証拠に、近年は4DXや3Dなど、鑑賞するだけでなく、五感すべてを使って映画を観る環境が増え続けています。

映画と人をつなぐもの

 

映画へ行く理由、そして映画館という場についてお話ししたところで話をまとめていきます。

原動力となるアイコン

そんな共有性ある映画館と人々を繋ぐのは、例えば大好きな俳優や女優だったり、監督だったり、何かしらのアイコンがあることがあります。映画館と観客の架け橋はそういったものからできています。

例えばその原動力となるアイコンが無くなってしまったり、魅力を失ってしまうと映画館へ行く機会が減ってしまうかもしれません。

そういった十人十色の、個人個人にとってのアイコンは、外部の圧力によって失われるのは、非常に良くないと僕は考えています。アイコン自身の問題で消えてしまうのも残念なことではありますが、全くの外野が、個人の希望でもあり、映画館との架け橋になっているものを壊すことはもっと残念なことです。

大切なことは映画が教えてくれた

いきなりとても個人的な話をします。僕は大学の時に映画館でずっとアルバイトしていて、そこにいる人の影響で面白い映画や、その映画の観方を教えてもらいました。

映画評論という仕事があって、映画を深読みして作り手のことにまで触れる。聞けば聞くほど目から鱗の話ばかりで、いつしか映画に対して特別な感情を抱くようになりました。

それ以前にも、映画や小説が僕の支えであった時期もあります。高校の時友達がおらず、昼飯も一人で食っていて、さらに帰宅部という強烈コンボを揃えていました。学校にいる間はクソつまらなく、授業が終わると逃げるように家に帰っていました。

家に帰ると、当時流行っていた『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや『ゴジラ』シリーズ、いろんな世界に飛び込めたのです。毎朝自転車を漕ぎながら、「このまま異世界へ飛ばしてくれ」と願っていました。

そんな孤独な高校生活の中でも、映画館へ行って映画を観て、本を読み、その感想をインターネットで共有したりすることで、自分と同じ考えの人や全く違う考えの人、同じものについて真剣に考えている人が世界にどこかにいることで孤独感が少し紛わされていました。

だからこそ映画館という場は大好きだし、映画も好きでいられます。さらには作り手や登場人物の心境と自分の現状を照らし合わせて、よし、明日も頑張ろうと希望を持てるのです。

ガン監督の降板はとてもやるせない

僕にとって、ガン監督は一つの希望でした。トロマ出身で、若い頃に色々苦労して、『スリザー』を撮って、ポルノに見立てたコメディ映像をYouTubeにあげ続けて、『スーパー!』を撮って、気がつけば『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』というビックバジェットの映画を撮っていた。

こんなことを書いていると、アイドルのファンが交際スクープを聞いてショックを受けて「もう応援できない」と言っているように聞こえてしまいそうですが、大げさに言ってもガン監督は僕と映画館をつなぐ一つの架け橋でもありました。

もしそれが本人の意志で起きたことなら仕方ありませんが、政治が絡んでいて、さらに守るべきディズニーサイドが解雇を言い渡してしまうというのは、なんだかとてもやるせなくなってしまいます。まあディズニー側の判断も批判するような判断ではなく、本当に酷いツイートだったので仕方ありませんが。

どういう経緯であれ、「昔の自分よりよくなろうとして、功績も残した人物」がこうも簡単に社会から除け者にされてしまうとなれば、一体どこに希望を持てばいいのでしょうか。

こういうことが今回色々とありましたが、ジェームズ・ガン監督であれば『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの締め括りを撮れなくても、まだまだ映画は撮り続けてくれるはずです。だからまだガン監督は僕にとっての映画館との架け橋でもありますし、ガン監督を応援し続けたいと思っています。

まとめ

映画館に行く理由と、今回起きたジェームズ・ガン監督の騒動を絡めてお話ししました。半分くらい僕のジェームズ・ガン監督の騒動に対する考えになっていますが、もし同じように考えてくれている方がいれば嬉しいです。




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わたしが書きました。

with Theaterの支配人です。
7年間大手シネコンで劇場マネージャーを務めたのち、デザイン・マーケティングの仕事を経て独立。今でも映画館の仕事は素敵だと思っています。尊敬する人物はジャッキー・チェン。仕事でトム・クルーズに会った時に緊張し過ぎて顔が白くなった経験あり。