刹那のように過ぎ行く150分|『TENET テネット』の速度についてこれるか?

みやざわ支配人

『ダンケルク』(2017)や『インターステラー』(2014)、『ダークナイト』シリーズ(トリロジー)など、数々の大作を世に放ってきたクリストファー・ノーラン。彼が新たな一手として打ち出した作品が、『TENET テネット』だ。

2020年の8月より世界各地で順次公開されていった本作は、時系列を見事に操ったいささか難解な構造を成しており、いかにもノーランらしいという感想を抱かざるを得ない。『メメント』(2000)や『インセプション』(2010)などいった過去作品からも分かるように、ノーランにとって時間は一つの鍵であり、ストーリーテリングに欠かせないものとなりつつある。

日本でも公開直後からすぐに話題となり、今もなお観る人が絶えない『TENET テネット』。今回は、その魅力を紐解いていこうと思う。ネタバレは避けているので、観に行こうか悩んでいるという方も安心して読んでいただきたい。

『TENET テネット』とは

まずはじめに、簡単にあらすじをチェックしておこう。

満員御礼のウクライナのオペラハウス。多くの観客で賑わう中、テロ事件が起こってしまう。無差別な大量殺人を食いとめるべく、ジョン・デイビッド・ワシントン演じる名もなき男は、特殊部隊として館内に突入していく。しかし、仲間を思う気持ち故に、身代わりとなりテロリストに捕らえられてしまったのだった。

長き尋問を受ける中、どうしても機密情報を漏らせないと考えた男は、死ぬしかないのだと毒薬の入ったカプセルを口に含む。しかしそれは毒薬ではなくただの鎮静剤にすり替えられていた。

昏睡状態から目覚め、フェイと名乗る男と出会った名もなき男。フェイは男に、「未来からやってくる敵と戦い世界を救う」というミッションとともに、謎のキーワード「TENET」を言い残す。

突如として世界を救わなければならなくなった男は果たして任務を遂行できるのか。

ノーラン史上最高の難易度と言われている本作は、簡単に説明すればこのようなストーリーである。

オープニングから加速していくノーラン劇場

冒頭でも述べたとおり、ノーランは本作で「時間の逆行」を軸にストーリーを展開した。時間が戻る、過去に戻ることができる、そう言ってしまえば簡単かもしれないが、これまでのノーラン作品と同様、いやそれ以上に一瞬たりとも目を離せないシーンが目白押しである。ピンと張り詰めた緊張感とともに没入していく感覚を、多くの鑑賞者が得たことだろう。

冒頭で繰り広げられるオペラハウス襲撃シーンは、映画を観る人々を作品へ前のめりにさせるには相応しいスペクタクルだ。この時からすでに、我々鑑賞者は画面いっぱいに広げられる情報量の波に飲まれていく。「これはどういう意味なのだろう」、「イマイチよくわからない」と思いながらも、我々鑑賞者の集中力は、なぜか最後までピンと保たれてしまうのだ。一瞬で鑑賞者を引き込み離さない、「この速度についてこれるか?」と言わんばかりのストーリー展開が、私たちを夢中にさせていく。150分が刹那のごとく一瞬で過ぎていくのだ。

ノーランからの挑戦状とも言える難解な仕掛けたち

ノーランがこれまでに世に放ってきた作品はどれも難解とされてきたが、今回は最高難易度との呼び声が高い。時間の逆行と言われると『メメント』(2000)を思い出すという人が多いだろうが、本作は少し質が異なっている。

『メメント』の主人公が記憶を保てるのは、たったの10分間だけ。彼は、妻を殺した犯人を見つけ復讐したいという一心で、真実を目掛けて進んでいくのだ。そんな彼が抱き続ける感情の根源を私たちが目の当たりにするために、時間の逆行は1つの手段として用いられている。そのため、実際に主人公が過去へと時間を巻き戻しているわけではない。

一方『TENET テネット』の場合、放たれた弾丸が逆行する、横転していた車が元通りになるなど、物理的に時間が逆に流れているシーンがふんだんに盛り込まれている。ノーランは本作で、決して1つの手段などではなく、時間の逆行そのものを真正面から捉えているのだ。その上、逆行する時間と順行する時間とが混在するのだから非常に厄介だろう。

逆行する時間を目の当たりにする度、張り巡らされた伏線の数々に鑑賞者である我々は気づいていく。いくつかの真実に気づいていくと同時に、また新たにわからない点が湧いて出てくるため、一度の鑑賞では到底この作品を把握することはできない。理解が追いつくまでを待つこともなく、見るも鮮やかなスピードで仕掛けられていくのだ。

「この仕掛けに気づけるか?」、「君にはこれを理解できるか?」まるでそう問いかけられ続ける150分に、私たちは瞬きすら忘れてしまうかもしれない。

理解を超えたその先で「感じろ」

『TENET テネット』の作中において時間の逆行を目の当たりにした主人公は、もちろん困惑を隠せない。それもそのはずである。放たれた弾丸が拳銃に戻っているなど、誰が「はい、そうですか」と受け入れることができようか。

そんな男に対し、とある女性科学者は「理解しようとしないで、感じて」と言う。まるでブルースリーのような台詞だが、『TENET テネット』という作品を端的に表している言葉にも思えるのだ。

そもそも時間の逆行が当たり前のように繰り広げられる『TENET テネット』の世界では、私たちの常識や、これまでに培ってきた知識、積み上げてきた理解力など歯が立たない。きっとこの映画にとって、「理解する」、「わかったつもりになる」ことは表面的なものでしかなく、理解を超えたその先で、映画を観てどう「感じるのか」が非常に重要なのではないだろうか。

さすがはスパイ映画!ファッションからも目が離せない

ここまで読んだ人にとってはゴリゴリのSF映画という印象しか抱けないかもしれないが、あくまでも『TENET テネット』は、世界に忍び寄る危機を食い止めるべく、主人公の名もなき男が奮闘する物語である。そう、非常に難解な構造でありながらも、ストーリー自体は非常にシンプルであり、ノーラン自身が言う通り「クラシックなスパイ映画」なのだ。

スパイ映画と言えば、多くの人が思い浮かべるのが「007」シリーズだろう。ブリオーニやトムフォードなどのスーツをビシッと着こなし、ボンドカーを乗り回して、華麗に任務を遂行していくジェームズ・ボンドは、世界中の映画ファンの中で共有されているスパイ像と言える。ボンドスーツに憧れを抱く人も少なくない。

そして『TENET テネット』においても、クールなスーツ姿は見所の1つだ。なかでも、ロバート・パティンソンが演じる名もなき男の相棒・ニールのスーツスタイルは華麗で、クラシックな雰囲気が優雅さを醸し出している。

スパイ映画ならではのファッションの数々も、ぜひ楽しんでいただきたい。

『TENET テネット』を観るならIMAXがおすすめ

今回は、クリストファー・ノーランの最新作『TENET テネット』の魅力を紐解いた。実際の細かな内容やコアな部分はあえて避けているため、未鑑賞の人にとって参考になればうれしい限りである。

これから初めて『TENET テネット』を初めて観る、あるいはもう一度観直したいと言う場合には、ぜひIMAXでの鑑賞をおすすめしたい。巧みで華麗なアクションシーンをこれでもかと堪能できるだけでなく、デザイナーのこだわりの詰まった衣装もより色鮮やかだ。

ノーランが新たに放った未知と発見の世界に、あなたも身を任せてみてはいかがだろうか。




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with Theaterの支配人です。
7年間大手シネコンで劇場マネージャーを務めたのち、デザイン・マーケティングの仕事を経て独立。今でも映画館の仕事は素敵だと思っています。尊敬する人物はジャッキー・チェン。仕事でトム・クルーズに会った時に緊張し過ぎて顔が白くなった経験あり。