やっと見たぞ!『カメラを止めるな!』ネタバレありレビュー

みやざわ支配人

今や全国この映画の話題で持ちきり、間違いなく今年No.1の邦画であり、歴史に名を残す映画。『カメラを止めるな!』は、一人の若い男性の胆力とそれを支える撮影クルー、周りの人々の純粋なパワーによって完成した。

映画はそれを文字通り表現しています。かくいう僕も何個か現場を体験した助監督時代があったので、低予算の現場のあの感覚は、味わったことのある人であれば歯がゆく、それを笑いに持って行ってくれていることに嬉しさを覚えます。

本当に上田慎一郎監督の映画への愛情、妥協はしないという覚悟が無ければ出来上がっていなかったんじゃないだろうかと思います。ラストの人力クレーンのシーンは大号泣です。それではレビューにいってみたいと思います。

はじめに

まずお読み頂く前に。

激しいネタバレを含みます!

映画の本編に触れながらのレビューとなるので、ネタバレがあります!特に『カメラを止めるな!』は、内容的に鑑賞前にネタバレを知ってしてしまうと興を削がれるてしまいます。

必ず、鑑賞後にお読みください。

ネタバレなしの映画解説はこちらへ。

混雑状況は?公開時期は?ネタバレなしで解説『カメラを止めるな!』

2018年8月9日

“人力”で作品を作ること

 

この映画が人を惹きつける理由の一つ、低予算製作について。

無名からの這い上がり

映画を作るのはお金がかかります。撮影クルーの人件費、ロケ地までの移動費、機材代、キャストのギャラ、セットのレンタル代、広告宣伝費。ハリウッドの映画なんて、何百億円という製作費をかけて、ヒットすればその3倍以上の興行収入が入ってきます。

こと、日本においてはハリウッドに比べて規模は小さいながらやはり製作費は数千万、数億円に及ぶことがあります。有名キャストへの高いギャラ、広告宣伝費。日本の場合はそれらが多くを占めています。

『カメラを止めるな!』は、そもそも予算が300万円しかありません。だからキャストも全員無名。上田慎一郎監督も、「有名な映画監督になる!」とmixiなどで息巻いていた若い時代を経て、作った映画は鳴かず飛ばず。

ネームバリューが全く存在しないこの映画をここまでの完成度に仕立てあげたのは、監督やキャスト、クルー全ての”純粋さでした。

無添加の映画

お金もなく、キャストもクルーも無名のため、当然『カメラを止めるな!』は映画としてのビジュアル面は無いに等しいです。ハリウッドの様にCGで作り上げたフィクション的な絵があるわけでもなく、画面いっぱいに黄色い声を受けるイケメン俳優のカットもありません。

そういったものが何も無いからこそ、映画本来の面白さである脚本の巧妙さや、ストーリーテリング、ギャグの面白さなどが、無添加で味わえるのです。

さらに『カメラを止めるな!』は、多重構造になっています。全部で第三幕あり、撮っていると思ったら撮られていて、というフィクションとフィクションが入れ子構造になっています。

この一つ一つの層も添加物はなく、無添加の多重構造を掻き分けて行くと、この世で最も尊い、純粋な、作り手の映画への情熱を感じることができます。

前田君呼んできて!

『カメラを止めるな!』はいろんな人に映画館で観て、感じて欲しいのですが、低予算ゾンビ映画と言うとやはり共通する内容として誰よりも『桐島、部活やめるってよ』の神木隆之介演じる映画部部長前田君、彼に観て欲しいです!笑

『桐島、部活やめるってよ』のDVD特典に、役者一人一人が役になりきってインタビューを受ける映像が収録されています。劇中でも前田君は「映画監督は、無理」と言っていたのですが、このインタビューでも「楽しく暮らせたらいい」と自分が大好きなことの夢にやや諦め気味。

大丈夫!上田慎一郎監督も『桐島~』に登場した野球部キャプテンと同じく、ずっとドラフトを待ち続けてやっと花が開いた!前田君!諦めるな!すいません上からで!

笑いながら泣くと言う経験

 

コメディで感動があって、作品として言うことなし

『ショーン・オブ・ザ・デッド』との比較

ゾンビもののコメディ映画、と聞くと『ショーン・オブ・ザ・デッド』を連想します。エドガー・ライト監督も、ゾンビものという本来ホラー映画であるものをコメディ映画にするというチャレンジをしています。

『ショーン・オブ・ザ・デッド』も低予算でハリウッド以外(イギリス)で撮られた映画ですが、カルト的な人気を得ました。こちらはゾンビパニックをコメディタッチに描くという、ゾンビ映画としては正当っちゃ正当な作りですが、『カメラを止めるな!』は少し違います。

『ショーン~』はゾンビ映画自体に笑いの要素があるのですが、『カメラを止めるな!』はゾンビ作品を作る過程というところに笑える要素があります。しかしこの笑い自体、ゾンビ映画を取り上げているからこそ笑える箇所ってのがあって、そもそも低予算映画=ゾンビ映画という構図自体を笑いにしています。

個人的には、助監督をやった経験があるので、あの現場のドタバタ感というか監督が切れて気まずい雰囲気とか、ライブ感というのがひしひしと伝わってきました。

日本のコメディでもここまでいける

低予算のゾンビものを作る、という構図自体を笑いにしたのは、本当に凄いというか、そういう発想があったか!と面を食らってしまいました。楽屋ネタや舞台裏的な映画は数あれど(上田慎一郎監督の崇拝する三谷幸喜監督の『ラヂオの時間』なんかも)、映画の作りそのものを笑いに持っていく大胆さと勢いは天晴れです。

逆に言ってしまうと、『カメラを止めるな!』よりたんまりお金をかけて、同じキャストを使い回して所謂雰囲気ギャグを振りまき、寒いギャグを連発している日本の映画なんてのもある中で、そもそもコメディ映画自体が年に数本も作られない日本で、ここまでのレベルのコメディができるのかと、頭が上がりません。

だけど泣ける

コメディ映画なのに、最後は泣けちゃうんです。泣ける理由は後述しますが、まず他の日本の映画と一線を画すところが、「登場人物が心境を口で説明しない」ところです。

つまりさらっと映画的に見せることで、観客自身が気づき、感動を与えています。具体的には、ラストの肩車でクレーンに見立ててカメラを上げるシーン。あれは今は仲が悪い父と娘の昔の写真をそっくりそのままなぞったシュチュエーションで、昔の仲が再びという感動できるシーンです。

それをセリフやナレーションでベラベラ説明してしまう、って他の日本映画ではかなり見られる光景ですが、『カメラを止めるな!』は全くなし。サクッと、その写真が二回ほど映るだけです。

『カメラを止めるな!』の泣けるところ

 

なんで泣ける映画なのでしょうか

父の再起を描いた

『カメラを止めるな!』は、今や社会に従順になって、自己を抑え付けていた中年が再び奮起するお話です。

例えるなら、『ロッキー』。内容も実は『ロッキー』にそっくりです。

『カメラを止めるな!』の日暮は再現VTRやカラオケ映像などを制作するディレクションを行なっています。

請け負い仕事ばかりで映像への情熱なんてもう無くなってしまっていて、正に名前通りのその日暮らし生活。ある時プロデューサーから声がかかります。

「ゾンビもののワンカット番組をやろう」初めは乗り気ではなかった日暮ですが、娘との壁や現場のトラブルを経て、「やってやろう」と奮起します。

劇中、日暮が作った『ONE CUT OF THE DEAD』の評価は語られません。プロデューサー達が「いいスタートだ」と言って終わる程度です。

『ロッキー』も王者アポロ・クリードの挑戦相手として選ばれます。勝ち目がないと周囲から言われますが、「俺はクズじゃない」と証明するために奮起します。

試合の結果はTKOでアポロの勝利。ただロッキーは最終の15ラウンドまで戦い抜きました。

ロッキーのような勝利

『カメラを止めるな!』の主人公日暮は、娘に自分が妥協だらけの映像監督ではないと証明するため、37分長回しという無茶な企画を撮り切ります。

決してその作品が賞を受賞したり、高視聴率を記録したりするところまで描かれていたわけではありませんが、日暮はこの番組を戦い抜きました。

まさにロッキーのように勝利した日暮。涙に目薬を使うのは悪いことではないですが、彼はもうワンカットワンカットに妥協しないでしょう。

忘れていたあの感覚

『カメラを止めるな!』は忘れていた感覚を思い出させてくれます。多分皆さん、僕もですが少し若い頃は野球選手になりたいとかゲームを作りたいとか、そう言う夢を持っていたと思います。

けど、その夢を30過ぎてまだ持ち続けている人って周囲にどれくらいいますか?「夢を諦めるな」なんて使い古された綺麗事を言うつもりはないです。

しかしこの上田慎一郎監督は30歳超えてもそんな夢を持ち続けて、いつか成就してやろうと息巻いていました。

『カメラを止めるな!』に登場する父・日暮と娘・真央はそんな上田慎一郎監督の分身みたいな存在です。

それなりに生きてはいるけど情熱やこだわりを忘れてしまった父。勢いだけで怖いもの知らずの娘。

今まで作った映画が泣かず飛ばずの結果で、父の様になんとなく映像を作って暮らしていくのか、娘のようにまだまだ猪突猛進で生きるか。

誰しも味わったことのある夢と現実の葛藤(恐らく上田慎一郎監督も味わったであろう)がそのまま『カメラを止めるな!』に映り込んでいるようでした。

『カメラを止めるな!』を映画館で見る意味

最後に、『カメラを止めるな!』を映画館で観る意味についてです。

『桐島、部活やめるってよ』や『この世界の片隅』でも起きていた口コミで上映館が増えていくという現象が今回の『カメラを止めるな!』にも起きています。

僕は『桐島、部活やめるってよ』の時に丁度その波に乗れて、劇場で何回も繰り返し観れましたが、あの劇場経験は今でもはっきりと思い出すことができます。

こういう、ある種の観客側の異常に昂ぶった熱量というのはDVDが出てからだと感じる事ができません。劇場にいる何人もの赤の他人と、一緒に笑ったり泣いたりする経験は、今しか味わえない経験です。是非劇場へ!!




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わたしが書きました。

with Theaterの支配人です。
7年間大手シネコンで劇場マネージャーを務めたのち、デザイン・マーケティングの仕事を経て独立。今でも映画館の仕事は素敵だと思っています。尊敬する人物はジャッキー・チェン。仕事でトム・クルーズに会った時に緊張し過ぎて顔が白くなった経験あり。