最初に前置きすると、筆者は幼い頃に鳥山明作『ドラゴンボール』(漫画)を通して読んだきりで、近年の映画作品や続編漫画にはほとんど触れていない。しかし、問題なくこの作品を楽しめた。ストーリーもバトルもアニメ表現も、丁寧に『ドラゴンボール』の世界に落とし込まれた今作をぜひご覧いただきたい。
敵も味方もクスっとできる身近さ
作品冒頭でまず最初に抱いた感想は「何だかちょっと懐かしい」という感覚だった。物語は、作品初期の悪の組織「レッドリボン軍」の悪事の相談から始まる。緊迫した雰囲気が漂いつつ、間の抜けた勘違いから繰り出されるギャグや、キャラクターの仕草に『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』の初期のノリを感じたのだ。作品の中でも初期に近い会話劇は、久しぶりに『ドラゴンボール』を見た身には震えるほど懐かしかった。
それらのノリは日常パートにも反映されている。近年の映画作品はスペースオペラ色が強くなっていたのに対し、今作は「幼稚園のお迎え」に代表する身近な世界が舞台だ。そこで描かれる、キャラクターの一見意味がないように見える人間味のある仕草から、作品の世界観を丁寧に表現しようとしたことが窺われる。
元悪役だったピッコロの微笑ましく、身近に思える様子をぜひ見てきてほしい。
セルルックアニメと3DCGの新境地
ドラゴンボールの魅力の一つに鳥山明のイラストがある。単調だが繊細な線と、デザイン的構図の美しさ。コミカルで愛らしいデフォルメ。それらはセル画アニメでしか表現されないと思っていた。しかし、今作はデジタル作画移行後のイラストを元に、全編フル3DCGで作成されている。Pixer作品の様な立体感を伴いながら、鳥山明の線画の風合いも残っているのだ。それらは絶妙なバランスでほとんど違和感がなくアニメーションとして融合されており、確かに『ドラゴンボール』であるにもかかわらず、新しい感触があった。
また、今作は冒頭でこれまでのあらすじを説明してくれる為、原作を知らない人に優しい。加えてそのシーンでは、再現度の高い原作風のイラストがこれでもかと縦横無尽に動き回り、回想というちょっとした場面にも、原作の世界観を今までやっていなかった手法で表現しようとする心意気が感じられた。
会話やギャグは懐かしい初期のノリで、作画は新しい表現方法で世界観を一新、懐かしさと新しさの融合だ。これらの要素は、ほとんど『ドラゴンボール』に触れてなかった人も、作品に親しめるよう導いていると言えるだろう。
『ドラゴンボール』の中の孫悟飯
改めて考える、ヒーローとは?
今作の新キャラクター、ガンマ1号とガンマ2号はアメコミのヒロイズムが感じられるデザインにも関わらず、敵役だ。このことからも「正義とは、ヒーローとは何か」が問われる展開が来ることは自明だろう。そのストーリーの中で、真の力を発揮するには大切な人が危機に瀕して発動する「怒り」が必要な、孫悟飯というキャラクターの面白さが改めて際立った。
『ドラゴンボール』の主人公といえば、誰もが思い浮かべるのは孫悟空だろう。孫悟飯はその息子として登場し、準主人公的なポジションの時期もあったが「本来は戦いが好きではない」という性格から徐々に戦場での活躍は少なくなっていく。
『ドラゴンボール』の純粋な強さを求めて修行し、進化し、強くなっていく快活な作風は本来の主人公・孫悟空の気風からくるところが大きい。しかし、悟飯が主軸になることで、強さの追求ではなく「守りたいもの、大事なものは何か」を意識ざせるを得ないシナリオになっていた。何を守り、何のために戦うのか。すでに十分な知名度があるヒロイックな漫画原作作品で、『スーパーヒーロー』のサブタイトルを冠するに相応しいストーリーだった。