2018年3月5日、とても嬉しいニュースが飛び込んできました。ギレルモ・デル・トロ監督のアカデミー賞作品賞と監督賞、合計4部門受賞。WOWOWの生中継で見ていました。私にとっては、と言うより色々な人にとってとても目出度い、感極まる受賞となっておりますので、この記事ではギレルモ監督について、今作『シェイプ・オブ・ウォーター』について、そしてアカデミー賞について掘り下げていきます。今作を観た後、前どちらでもいいので、この記事を読んで、より胸を熱くして頂ければと思います。
ギレルモ・デル・トロ監督について
まずはギレルモ監督について彼のフィルモグラフィを振り返りながら、お話ししていきます。
プロフィール
ギレルモ監督のプロフィールです。
生年月日 | 1964年10月9日 |
本名 | Guillermo del Toro Gómez |
出生地 | メキシコ |
映画に興味を持った年代 | 10代から |
つぶらで綺麗な瞳の持ち主の優しい雰囲気があるギレルモ監督。彼は10代の頃から映画に興味を持ち、メキシコの映画学校で学んだのち、特殊造形・メイクの道へ入ります。自分で特殊造形の会社を立ち上げ、そっちの仕事をしながら29歳には映画監督としてデビューしました。
根っからの怪物・怪獣オタクで、日本のウルトラマンやマジンガーZ、ゴジラなどに影響を受けて育ちました。メキシコで彼の幼い頃にそういった日本のアニメなどが放送されていたそうです。さらに、「怪物の館」と呼ばれる、怪物・怪獣コレクションを多数揃えたコレクターズルームを所有する筋金入り。
日本でも、永井豪さんに会ったり、映画評論家の町山智浩氏、ゲームクリエイターの小島秀夫氏などとも交流があります。本日のWOWOW生中継ではギレルモ監督の受賞に涙する町山氏が映っていました。後どら焼きが物凄い好きだそうで。
ちなみにギレルモ監督、先述の特殊造形の会社や、『レヴェナント:蘇りし者』の監督であるアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督らメキシコ人監督達で映画の制作会社を立ち上げています。『ダークナイト』や『ハングオーバー!』シリーズで有名なレジェンダリー・ピクチャーズの創立者である”ビジネスができるオタク”トーマス・タルと似た雰囲気ですね。『パシフィック・リム』もレジェンダリー制作ですので、交流はあります。
フィルモグラフィ
ギレルモ監督のフィルモグラフィ一覧です。ある程度割愛はしていますが、なるべく紹介します。
- クロノス(1993年)監督・脚本
- ミミック(1997年)監督・脚本
- デビルズ・バックボーン(2001年)監督・脚本
- ブレイド2(2002年)監督
- ヘルボーイ(2004年)監督・脚本
- パンズ・ラビリンス(2006年)監督・脚本・制作
- 永遠のこどもたち(2007年)制作総指揮
- ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー(2008年)監督・脚本
- スプライス(2009年)制作助手
- ホビット思いがけない冒険(2012年)脚本
- パシフィック・リム(2013年)監督・脚本・制作
- ホビット竜に奪われた王国(2013年)脚本
- ホビット決戦のゆくえ(2014年)脚本
- クリムゾン・ピーク(2015年)監督・脚本・制作
- シェイプ・オブ・ウォーター(2017年)監督・脚本・制作
ご覧の通り、かなりファンタジー色が強いです。現実に居ないものを描く。僕は水木しげるさんのゲゲゲの鬼太郎などが大好きなので、通じるところがあり、どの作品も大好きです。ちなみに初めて出会ったのは『ブレイド2』。日本刀振り回すウェズリー・スナイプスに痺れました。
クリーチャー愛
ここからは後述する内容を踏まえて、ギレルモ監督の作品群の特徴を述べていきます。彼の作品は、どれも現実にはいない怪物や怪獣を取り扱っています。しかし、このクリーチャー達は、現実と通じる部分を持っているのです。
ギレルモ監督は様々なインタビューでクリーチャーについての考えを述べています。
いつも孤独で、テレビの中の怪獣だけが友達だった。怪獣は嘘をつかないから好きだ。
引用:文春オンライン 映画『シェイプ・オブ・ウォーター』ーークローズアップ
http://bunshun.jp/articles/-/6307
この怪獣やクリーチャーですが、『ゴジラ』を代表とした多くの映画では、必ず現実の何かを象徴した存在になっていました。『大アマゾンの半魚人』や『フランケンシュタイン』などもそうです。彼らは、異形のもので、いつもつまはじきにされてきました。
それが今回の『シェイプ・オブ・ウォーター』では露骨に描かれています。
『シェイプ・オブ・ウォーター』について
さてそんなギレルモ監督の目出度いアカデミー受賞作、『シェイプ・オブ・ウォーター』についてお話しします。
ストーリー
『シェイプ・オブ・ウォーター』は一見、愛の物語のように宣伝されています。愛の物語と聞くと、病弱なイケメン男優が余命を彼女と過ごすとか、そんなイメージがありますよね。でも『シェイプ・オブ・ウォーター』は全然違います。愛なんですが、冒頭いきなり女性主人公の自慰から始まります。
舞台は冷戦下のアメリカ。主人公のイライザは口が聞けないので手話で話をします。そんなイライザの友人は、職場のアフリカ系アメリカ人である女性と、隣に住むゲイのイラストレーター。イライザの仕事は、政府の宇宙航空研究施設の清掃員。誰にも注目されず、見た目も美人とは言えないイライザ。
ある日イライザは職場の施設に持ち込まれた実験体と出会います。凶暴な半魚人です。マイケル・シャノン(ゾッド将軍!)演じる警備主任のストリックランドは常に強い男を目指しています。だから実験体の半魚人を力で制します。
清掃の仕事をしながら、半魚人と交流を深めていくイライザ。次第にそれは興味から愛に変わります。ところが、半魚人には解剖処分が下されます。冷戦下のソ連とアメリカは、宇宙開発技術で競い合っていました。だから陸でも海でも呼吸できる半魚人を解剖して、それを技術にしようとします。
半魚人を逃すことにしたイライザとその仲間。ストリックランドの手からイライザは半魚人を解放できるのか…?
というストーリーです。続いて作品についてお話しします。
The Othersの物語
「これはThe Othersの復讐劇だ」とギレルモ監督は語っていたと映画評論家の町山氏がラジオで語っており、映画のチラシにも町山氏のコメントが寄せられていました。
The Othersとは、除け者や他の者、という意味です。ファレル・ウィリアムズのブランドではありません。なぜかというと、この作品の登場人物たちは全て世間から除け者扱いされる人たちばかりなんですね。黒人やゲイ、口のきけない唖者。
実験体にされる半魚人も、言わば除け者です。人ならざる者として、動物以下の扱いを受けます。クリーチャーだけでなく、人間にもクリーチャーと同じく除け者にされる人が出ているのです。
これは、映画だから、とかファンタジーだからとかでは収まらない、現実とリンクした問題になっていますね。『ブラックパンサー』でも、ラストシーンで主人公が演説します。「愚か者は人との間に壁を作る」。不法移民を壁によって分断しようとするトランプ政権のそれと重なります。
除け者たちはどの時代にも、自分たちの近くにも存在します。友人のいない高齢者、低所得者。孤独な存在というのは、クリーチャー以上に身近な存在です。
そんな除け者たちが団結して、逆襲を行う。見た目ではない、心を見て他者を愛する。そんな痛快な物語にもなっています。
美しい描写
この映画、物語だけではなく、画作りにもかなりのこだわりを感じます。まるでずっと水の中を漂うように、静止する描写がありません。常にカメラは動き続けます。
主人公のイライザと半魚人の性交も美しいです。まるで宇宙で深く愛し合っているかのようです。急に始まるミュージカルも、主人公の気持ちの高まりをきちんと表現できていて、感涙の嵐でした。
さらに見て欲しいのは、色使いです。イライザの着ている服や小道具。気持ちによって様々な色に変わります。半魚人に恋をしたイライザは、それまで緑の地味な服装だったのですが、赤い服装に変化したりします。映像作品の醍醐味である気持ちを画で表現するというのを、きちんと真面目にやっている印象を受けました。
私も今一度、この映画をゆっくりと鑑賞しようと思います。
アカデミー賞について
では今回『シェイプ・オブ・ウォーター』が受賞したアカデミー賞についてです。よく映画の宣伝で用いられている「アカデミー賞受賞!」という宣伝文句。受賞と言っても、様々な部門があって、どの部門も素晴らしいのですが、各々によって受賞の意味合いや重さも変わってきます。
アカデミー賞概要
アカデミー賞は世界三大映画祭と呼ばれるほどの権威ある表彰式になっています。今年で90回目を迎えるアカデミー賞ですが、これってどうやって投票されているか知っていますか?
実は、映画関係者によるアカデミー会員というのが存在し、彼らが担当の部門、例えば監督なら監督部門に投票します。最終は会員全員がノミネートされた作品に投票するのですが、意外と身内な集まりなんですね。
ちなみに賞金はありません。金メッキされたオスカー像だけ渡されるのですが、映画のマーケティングに対する影響力は凄まじいものになります。
なぜなら、このイベント、アメリカのアメフトの大会スーパーボウル並に視聴率が多い番組となっています。影響力も歴史も凄まじい、まさにアメリカを代表する映画祭なんですね。あと、日本アカデミー賞は直接の関係はありません。
作品賞と監督賞
アカデミーの部門は下記の通り複数ありますが、中でも代表的なものは作品賞と監督賞となります。
アカデミー賞部門一覧
- 作品賞
- 監督賞
- 主演男優賞
- 主演女優賞
- 助演男優賞
- 助演女優賞
- 脚本賞
- 脚色賞
- 長編アニメ映画賞
- 短編アニメ賞
- 長編ドキュメンタリー映画賞
- 短編ドキュメンタリー映画賞
- 短編映画賞
- 外国語映画賞
- 作曲賞
- 歌曲賞
- 音響編集賞
- 録音賞
- 美術賞
- 撮影賞
- メイクアップ&ヘアスタイリング賞
- 衣装デザイン賞
- 編集賞
- 視覚効果賞
以上となります。見ての通り、映画製作に携わる部門全てに各賞が用意されています。では肝心の作品賞と監督賞ですが、何が違うのでしょう?
作品賞→優れた作品自体に贈られる賞。受賞は作品のプロデューサー
監督賞→優れた映画監督に贈られる賞。
となります。読んで字のごとくなのですが、今回の『シェイプ・オブ・ウォーター』なんかはギレルモ・デル・トロ監督が制作も行っているので、作品賞の受賞時はオスカー像を受け取っていました。
ちなみに今まで、監督賞を受賞した作品の多くが作品賞を受賞する、という流れでした。昨年は監督賞が『ラ・ラ・ランド』のデミアン・チャゼル監督、作品賞は『ムーンライト』と異なっていました。またプレゼンターが作品賞を読み間違えるというトラブルがあり、今年はそれがいじられていました。
「アカデミーは白すぎた」
昨今問題になっているのが、アカデミー賞受賞者の白人の多さ。さらにメキシコ系などの移民系民族も受賞した歴史がありませんでした。しかしながら最近では、多くのアフリカ系アメリカ人の映画人などの他民族も、多く受賞するようになっています。
これの面白いところは、トランプ大統領が白人至上主義のような風潮を作っている中、映画という芸術が逆行している点です。これではダメだ。多様性を尊重し、白人以外の人種にもスポットライト当てなければいけない。
アルフォンス・キュアロンやアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督、『ムーンライト』。そういった作品や映画人が昨今多く受賞しております。当然のことながら、どの作品も素晴らしいです。
その中で、「子供向けだろ?」と言われ、除け者にされてきた怪獣映画の受賞。これが今年の凄いところです。
怪獣映画の受賞
今回監督賞と作品賞を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』。今まで、ジョージ・A・ロメロ監督が代表するゾンビ映画やゴジラなど、怪獣が出てくる作品が受賞したことはなかったのです。怪獣映画だって立派な映画で、観ている人の心を揺さぶる映画なのに。
しかし今回歴史が塗り替えられました。半魚人の物語が栄誉ある作品賞を受賞。これは素晴らしいことです。ゴジラもガイガンもキングギドラもへドラも、表舞台に上がれるのです。
僕が子供の頃に好きだったゴジラや仮面ライダーの怪人。今も大好きなマーベル映画のヒーローたち。子供向け映画というレッテルを越えて、世界が芸術作品だと認めた記念すべき日になりました。
まとめ
ギレルモ監督は、映画界に風穴を開けました。これから続く映画人や映像作家の希望となります。まずはじっくり今公開中の『シェイプ・オブ・ウォーター』を楽しんで、もっと楽しい映画を、日本でも作れるようになるといいですね。
最後にギレルモ監督の受賞時のコメントで占めたいと思います。
夢を見ている人達、ファンタジーを使って現実について語りたいと思っている人達に伝えたいです。
夢は実現するんです。切り開いて中に入ってきてください。ギレルモ・デル・トロ−−アカデミー賞作品賞受賞時のコメント